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騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編(村上春樹/新潮社)~あらすじとそれに関する軽いネタバレ、感想

投稿日:2017年3月5日 更新日:

  • 孤独な肖像画家が主役の静かな物語。余り怖くない。
  • 「読ませる」小説だが、不満点もある。
  • 題名の意味は直ぐ分かる。サブキャラが魅力的
  • おススメ度:★★★★☆

結論から言うと、全くいつもの村上春樹氏で、最初は退屈だが徐々に面白くなった。怖い要素はあるが、直接的な残虐描写はなく、どちらかというと「不思議」か「不気味」くらい。あと、私的な不満もある。

あらすじは、シンプルだ。妻と上手くいかなくなった中年の男性が、友人のつてをたどって山の上に家を借りる。ほとんど人のいない静かな所で、小さく海が見える。彼は肖像画家で、腕はいいがその仕事を辞めていた。しかし、絵画教室の講師をしている。そしてその生徒の人妻と不倫関係にある。その近所に、謎の金持ちが引っ越してくる。その金持ちから肖像画を描いてほしいと依頼を受ける……。
話のポイントになりそうなのでここに書かないが、異常にインパクトのある「騎士団長殺し」のタイトルの「表面的な」意味はすぐに分かる。そんなに複雑なものじゃない。ただ、その真意はやっぱり謎のままだが。

いつもの村上春樹というのは、不思議なテーマで複雑な知識が用いられているが、平易な文章で、説得力ある描写でグイグイ引っ張っていく所だ。「やれやれ」は出てこないが、過去作の主人公に似た部分も多い。冷静で内省的、そして、仕事ができる。音楽や歴史の描写も多い。しかし、独創性とエンターテイメント性を両立できるのは、なかなかできないことだ。

面白いのは、サブキャラクターの性格付けで、これは毎度毎度、本当にすごいと思う。あるキャラクターの登場時間は短いが、好感を持たずにはいられない。代表作「ノルウェイの森」に「突撃隊」というキャラクターが出てくるが、これが実に魅力的で、今でも思い出して笑ってしまうくらいだ。今回は後編があるので、サブキャラの活躍時間は短いが、確実にキーキャラクターになるだろう。

不満点は、とにかく主に「不倫」に絡むセックス描写が多いこと。それは、物語の「装置」として役割を超え、まるでポルノ小説を書こうとしているのかと思うくらいだ。私も男性なので、そう言ったエロティックな要素は大抵は好きだが、この小説にはここまで必要ないような気がする。正直、描写の詳細な部分は読み飛ばした。なぜか「不快」な気分になる。後編があるので、何か意味があるのかも知れないが、たぶん、村上春樹は「性交」に何らかの絶対的な真実を感じているのではないかと思うくらい執拗だ。

全体としては、非常に面白い「前編」だが、これだけでは評価しきれない。また、村上春樹氏の著作の入門作としてはさほど適切ではない。前回紹介した「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」の方が分かりやすい。ホラーやサスペンス的な読み方をするならは、あまりお勧めしない。

新書で1944円。その価値は十分にあると思うが、万人には勧められない。そんな小説だ。ただ「後編」で、評価は変わる可能性があるので、あくまで「前編」のみの感想になる。

(きうら)


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