- 自転車レースの裏側、ドーピングを語るノンフィクション
- 偉大なチャンピオンの転落劇を生中しく語る
- 暴露本だが感動する。みんな必死なんだ。
- おススメ度:★★★★☆
自転車レース。今回は、競輪のことではない。ロードバイク(自転車)にのって、世界中を転戦するプロのレーサーの物語だ。自転車の世界にはサッカーのワールドカップのような大きな大会があって、イタリアの「ジロ・デ・イタリア」、フランスの「ツールド・フランス」、スペインの「ブエルタ・ア・エスパーニャ」の三大大会がある。どれも3週間、一日に平均200km、7時間も走り続けたり、アルプスの山を「自転車で」時速30kmで登ったりする過酷なレースだ。その中でも「ツールド・フランス」が最も有名。日本では残念ながらマイナースポーツだが、愛好者は増えていると思う。ちなみに以前に紹介した「茄子」は「ブエルタ・ア・エスパーニャ」の映画だ。
この本は、その有名選手だったタイラー・ハミルトンが中心になって書いた本で、要は自転車レースで勝つために、過去7回ツールド・フランスで優勝した(今は剥奪)ランス・アームストロングのドーピングを手伝っていた経緯を詳しく暴露している。ハミルトンは私も好きな選手で、レース中に鎖骨を折ったのに気迫でレースを続けた偉大な選手だ。
このランス・アームストロングは、ツールド・フランスを7勝した過去最高のチャンピオン(だった)で、最高のスポーツ選手として尊敬を一心に集めていた。理由がある。彼は精巣癌にかかり、それを克服して、レースに連勝したのだ。このストーリーに私も感動した。DVDも持っている。でも、である。それが血液ドーピングという不正だと「本人が」告白したのだ。まさに地に落ちた英雄だ。自転車レースは、過去にもドーピングの多いスポーツで、ツールド・フランスには、優勝者がいない年がいっぱいある不名誉な記録が多い。電車に乗って不正をしたという笑えない話も残っている。最近もメカニカルドーピング(自転車にモーターを仕込む)で揺れている。
これは勝つための執念の物語だ。その為のドーピングだ。これは怖い。勝つために手段を択ばない。それが寿命を縮めかねない。それでも勝たないといけない。これは大人の世界の恐怖だ。結果で評価される。当たり前だ。でも不正はいけない。ただ、個人的に勝つために命を削ったハミルトンとアームストロングを憎む気にならない。単純に尊敬はできない。でも侮蔑もしない。彼らは勝つために命を張ったのだ。スポーツマンシップとは別の話だが、まあ、いいではないが。それが人間だ。
この本に大好きなシーンがある。後半だ。タイラーが友人とボロい自転車で走っていると、信号待ちをしていた時、高価なレース用の自転車(数千ドルもする)を乗った二人のライダーが横に止まった。かれらはハミルトンに気が付いた。そしてその彼らのTシャツには「ドーパー(ドーピングをしたやつ)は最低」と書かれていたのだ。ハミルトンは腹が立ってそれを追いかけた。そして、互いに目を合わす。そして、ハミルトンは、その男と握手をしてこう言うのだ。
「やあ、僕は昔ドーパーだった」僕は言った。「だけど、最低じゃない。じゃあ、楽しい走りを」
レースってなんだ? 正義ってなんだ? 不正ってなんだ? ドーピングってなんだ? 割り切れるもんじゃないんだ、大人の世界は。竹原ピストルの歌詞を借りると「必死じゃない大人なんていないのさ」。
自転車競技に興味がなくても、いい一冊だと思う。この本の「恐怖」部分はドーピングの怖さに限られるが、読んで損はしない本だと思う。そして、自転車好きの好きな人が増えてくれたらいいな。ただし、現役ロードレーサーは、交通ルールはちゃんと守って、なるべく車道は走るなよな。危ないし、迷惑だ。ロードレーサーは紳士であるべきだ。私もそうありたい。
(きうら)
![]() シークレット・レース [ タイラー・ハミルトン ] |