★★★☆☆

二階の王(名梁和泉/角川ホラー文庫)~紹介と感想、軽いネタばれ

投稿日:2017年9月28日 更新日:

  • 二階に引きこもる兄の正体は?
  • 元「ひきこもり」達だけに見える異形と化した人々
  • 彼らは「悪因研」と称し、見えない悪と対峙するが……。
  • おススメ度:★★★☆☆

旧サイトの「新刊を勝手に予想」というコーナーで、紹介したのをきっかけに読んでみた一冊。通読した印象は事前の予想と違い「とても丁寧に物語が構築されており、完成度が高い。その割には何を伝えたいのかが微妙に曖昧」という印象だった。

(あらすじ)東京の郊外で八州朋子(やすともこ)は、両親・兄と一緒に暮らしている。しかし、兄は30歳を過ぎても自宅に引きこもり、その姿を見せない。勤め先のショッピングモールの文具販売店でも、そのことを隠して働いている。彼女には、やがて同じビルの眼鏡店で働く加東に心惹かれる。一方、元警察官の仰木という男のもとに集まっている6人の男女たちは、考古学者でカルト的な研究に手を染めていた砂原が遺した書物などを理論として「悪因研」を名乗り、「悪因」を探していた。「悪因」に触れると、普通の人間も「悪果」と呼ばれる異形に姿を変える。6人は何らかの形で社会からドロップアウトしているが、視覚や嗅覚、触覚などによって「悪果」を見分けることができる。やがて「悪因」側からも彼らに手が伸びるのだった。

非常に独特な設定なので、上記のあらすじを読んでも、世界設定は良く分からないと思う。整理すると

1.引きこもりの兄を持つ妹が、家族と一緒にNPOなどと連携し、兄の社会復帰を果たさせようとするお話
2.自分たちだけが異形の者たちが「見分けられる」という社会的弱者のグループが、異形の原因を探索するお話

と、いう二つのストーリーラインが微妙に交錯しながら進行する。一番のポイントはもちろん「兄」と「異形」たちの正体だろう。オチが明かされるまでは、読者はずっとその二つの疑問の正解を考えながら読書することになるだろう。事前の紹介からは、ラノベ的「能力バトル」要素などがあるかとも思ったが、そういった要素はなく、完全に大人向けに構築されているのが意外だった。

「異形」が見分けられる「能力」を持った社会的な「弱者」という設定は、一歩踏み間違えれば、ありきたりな娯楽小説になってしまう。このフォーマットはダークヒーローの基本だからだ。まず、その点を上手く回避しつつこの設定を現代で通用させているのは作者の特異な力量だろう。つまりギリギリ「サイコ・ホラー」としての可能性を残しつつ、オカルト的要素を取り込んでいる。

一方で、詳細に描かれる異形たちの姿は、本の解説にもあったが、どこかクトゥルー神話的コズミック・ホラーを思わせるような描写になっている。異形たちは、時に動物や昆虫の顔になり、異臭を放つのである。ただし、直接、攻撃に移ることはなく、表面上は彼らだけに「そう見える」というだけで、本当にそうなのかどうか分からないように工夫されている。これが際どい所でリアリティを保っている要因だろう。

先ほどクトゥルー的と書いたが、背景にはきっちりとした独自のオカルト設定があり、これはうまく機能している。最後まで読めば、スッキリとすることは間違いない。

一方、よく出来ていると思いつつ、今一つ、はまり切れない何かがある。

私が感じた欠点はキャラクターに魅力がない点だ。主人公である朋子も「悪因研」のメンバーも、物語上の役割はしっかりと理解できるが、彼らの誰に感情移入していいのか分からない。頻繁に視点が入れ替わることもあり、彼らの人物造形に共感を抱く前に物語が進行してしまう。上記の大衆娯楽要素を慎重に避けた結果、登場人物はリアルになったが、その分、感情移入して読むようなダイナニズムが霞んでしまったように感じる。おかげで折角の大オチも今一つ不発に終わっているように思う。簡単に言えば、もう少し共感できるエピソードが欲しかった。

不気味かつ精緻な小説として読むなら十分満足できるだろう。ただ、その先に何が描きたかったのか? 不気味な世界観だけで満足だったのだろうかと思う。ひきこもり問題についても、鋭く掘り下げているという程でもないし、上記のリアリティの問題からオカルト・ホラー系に振り切ってしまうこともできていない。著者の作風かも知れないが、どこか冷めたトーンの読後感となった。西洋的な人間の宿業のようなものは感じるが……。

ちなみに、文庫化にあたり、短編の「屋根裏」という小説が書き下ろされているが、これも上記のストーリーの派生譚となっている。ひょっとすると、本当にクトゥルー神話体系的な世界の構築を著者は目指しているのかも知れない。とりあえず「二階の王」の正体が気になったら、ご一読を。最後に表現について、この手の小説にありがちなショッキングな描写や性描写は極力省かれていて、ある種の「品の良さ」も感じられた。

(きうら)



二階の王 (角川ホラー文庫) [ 名梁 和泉 ]

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