★★★★☆

巷説百物語(京極夏彦/角川文庫)~あらましと感想、軽いネタバレ

投稿日:2017年8月11日 更新日:

  • 人工怪談とでも言うべき怪奇短編集
  • 江戸の世を舞台に悪人を非合法(妖怪的?)に罰する
  • 著者の博識ぶりが発揮されているが、衒学的に過ぎず読みやすい
  • おススメ度:★★★★☆

著者の京極夏彦氏の著作は本サイトでも何作も取り上げているが、本作はシリーズものとしては「百鬼夜行シリーズ(いわゆる京極堂が登場するシリーズ)」に次ぐ人気のシリーズものだ。2017年現在、この「巷説百物語」を皮切りに「続」「後」「前」「西」と計5冊が刊行されている。長編小説である「百鬼夜行シリーズ」とは違い、連作短編集の様な体裁をとっており、本作にも都合7話の物語が収められている。各話に明確な前後関係はないが、基本的に掲載順、刊行順に連続して読んでいくと前後関係が分かりやすいだろう。短編集と書いたが、通常の小説では中編くらいのボリュームがあるお話もあり、新書版で513ページとかなりの分量になっている。

物語の骨子は、江戸時代の末期の天保年間を舞台に、小俣潜りの又市、考物の百介、山猫廻しのおぎん、事触れの治平など、怪しい二つ名を持つ登場人物が、金を貰って法では裁けない悪人たちを懲らしめるという内容で、いわゆる「必殺仕事人」タイプの物語になっている。ユニークなのは著者の嗜好を反映し「百鬼夜行シリーズ」と同様に、お話のタイトルが妖怪やあやかしの名前から取っている点だ。「小豆洗い」や「白蔵主」、「舞首」「芝右衛門狸」等々、内容も其々のモチーフになった妖怪に沿って展開する。

「人工怪談」というのも変な造語だが、この小説の場合、通常の怪奇譚とは逆のパターンをたどるので、そう表現してみた。普通の怪談は、何某かの怪しい出来事が起きて、その出来事に関連し、因果話や情話、復讐譚などの物語が語られ、最終的に霊なり妖怪なりモンスターなり、何らかの正体が明かされて落ちがつく。ところが本作は、冒頭に怪しい出来事が出来するのは同じだが、基本的にそれは「仕掛け」があるものなのである。これは7話ある短編全てが同じフォーマットになっており、読者は「怪異の正体は何か?」ではなく「怪異の仕組みはどうなっているのか?」を楽しむような構図になっている。つまり、もともと無かった「怪談」を上記の怪しい面々が「演出」し、妖怪の仕業に見せかけて、殺人なり暴行なりの恨みを晴らしていくということが前提なので「正体は幽霊でした」という結末にはならず、必ず合理的な説明がなされる。と、いうわけで構図としては意図的に「怪談」を作り出すお話なのである。そういう意味ではミステリ的な要素もある。

分かりやすい例でいうと「芝右衛門狸」というお話は、本当に「狸が化けたと思しき人物=芝右衛門狸」が登場し、作中の老人と親しくなる。その老人は芝右衛門狸(らしき人物)と出会う前に、幼い孫を惨殺されているという悲惨な過去があるのだが、その凶事と一見関係のない芝右衛門狸、そしてその犯人と又市らが複雑に交錯し、最終的には「裁き」が下されるという筋書きだ。一見荒唐無稽な内容だが、そこは博覧強記で鳴らす京極夏彦だけあって、どのエピソードにもきちんとしたバックボーンが有り、妖怪に関する深い知見があり、歴史的な風俗にも違和感がない。更に短編集という形なので、百鬼夜行シリーズほど、長々と妖怪の蘊蓄について語られることもないので、非常に読みやすい。ぱっと見は漢字が多いので読みにくそうだが、少しでも怪談好きの方ならあまり抵抗はないはずだ。

注意点としては内容的にかなり「エグい」シーンが登場することで、上品な歴史ものだと思って読んでいると、びっくりするほどの残酷描写や悲惨なシチュエーションが登場する。最終的には綺麗な落ちがつくので、後味が悪いということは無いのだが、「額を割られた幼い少女」などの表現が苦手な方にはあまりお勧めできない。私は「西」を除いてすべて読んでいるが、一種の様式美を楽しむ小説でもあるので、全体的には少々パターン化しているのは否めないが、この一巻だけ取ってみれば、非常によくできた娯楽小説と言えるだろう。

(きうら)



巷説百物語 (角川文庫) [ 京極夏彦 ]

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