特になし

年末に読んだ本~読書メモ(25)

投稿日:2019年1月14日 更新日:

  • 「読書メモ-025」
  • ラノベについて
  • 新書と中国文学について
  • おススメ度:特になし

【はじめに】

今回は、去年(2018)の年末に読んでいた本の中から、感想を書けるものだけを取り上げる。内容はライトノベルとその他。

【俺ガイルの新刊】

・渡航『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。(13)』(ガガガ文庫)

※12巻の感想は2017年10月25日付けの記事で書いているので、そちらを先に読んでもらえればありがたい。

この13巻においては、八幡(ヒッキー)が目指す、彼の意思でなされる当て馬の企画を立ち上げることに費やされる。この「ダミープロム」には、おそらく当て馬以上の意味は何もない、というかそれすらもない蟷螂の斧かもしれない。それでも八幡が全く意味のないかもしれないことをやるのは、それしかすることがないからと本人も認めるところ。たとえそれが雪ノ下雪乃の意に沿わないものだとしても。でもそれは、本作の流れからすると、今までの奉仕部における関係の清算と新たな関係性の構築に向かうための「本物」の何かをつかむためには必要なことかもしれない。このややこしさは、やはり八幡と雪乃と由比ヶ浜結衣との微妙な距離感(の取り方)にあるように思う。それと学生という未成熟な人格という縛り。

八幡が雪乃のことをどう思っているかは分らないが、明らかに友情以上の尊敬の念を持っていると思う(たぶん)。八幡は、12巻で自ら他人に関わっていくことを決めたように思う。その結果示されたのが、この「ダミープロム」の立案ではないか。それは、雪乃自身の自立に関して何の齟齬はないと、八幡が確信を持って考えていたかどうか分からないが、葉山隼人から雪乃の過去のことを(ようやく)聞いたことによって、八幡自身の決意は無意識に固まったように思う。それを表すのが、八幡が葉山に言った「男の意地」ではないか。どうも、八幡と雪乃の関係は、なんとなく戦友といった印象を受ける。なぜかは分からない。この二人が最終的にくっつくのかもしれないが、それは学生時代のひねくれた関係ではないだろう。

一方の由比ヶ浜(ガハマさん)だが、彼女は分かりやすいほどに分かりやすい。八幡への想いは誰が見ても手に取るように分かる。原作では(アニメでも)、由比ヶ浜はなぜかおバカキャラの役割が当てられていて、なんだか気の毒だが、その性格も、もしかしたら奉仕部三人の中ではうまく機能していると思う。頭が切れる「完璧主義」ゆえに強情な雪乃と、妙に他人の気持ちを忖度できるがひねくれている八幡に挟まって、おバカな由比ヶ浜は、少なくとも八幡に対して好印象を与えている(と思う)。もし由比ヶ浜が八幡を落とすためにこのキャラを演じているとしたら・・・(ないない)。それはそうとして、もし私がこのクラスにいたとしたら、八幡と由比ヶ浜は付き合っているようにしか見えない。それは八幡ほどの自意識モンスターも知悉しているはず。

八幡が誰かを選ぶという、「~エンド」で終わるのか分からないが、ともかくどこかのラノベみたいに《誰も選ばないで逃げ出すエンド》はないと思いたい。もし、三人が何か新しい関係性でやり直すとしたら、雪乃次第かもしれない。そんなラストがあるか分からないが、八幡と由比ヶ浜がそれを望まないわけはない。奉仕ではなく、共依存でもなく、「本物」の名で呼ぶことのできる関係。それは、なんだろうか。おそらく《親友》というコトバをださなくとも、三人がそれを分かりあえる関係。そういう終わりもいいと思うが、由比ヶ浜は「あたしの全部が、痛いくらい、好きだ」とモノローグってるわけだから、奉仕部の時のような、なあなあの関係ではなく、由比ヶ浜自身が自信を持って八幡にアプローチしても三人の関係が揺るがないという、ある意味不可能かもしれないものを彼女が求めていると個人的には期待したい。つまりは、新しい関係性のもとで、三人がお互いの気持ちをやり取りするという、さわやかすぎる《俺(わたし)たちの関係はこれからだエンド》ですね。その時には、やはり俺の青春ラブコメはまちがっていなかった、となることだろう。

はたして、由比ヶ浜エンドはあるのだろうか。個人的にはそれがストンと納得できていいかなと思う。八幡は明らかに由比ヶ浜との距離にドギマギしている描写があるし。しかしそれが恋愛感情なのかどうなのかは分らない。それに八幡は、由比ヶ浜が自分のことを同情で好きになっているのではないかという、変にひねくれた考えを抱いているような気もしないではないし。ここで由比ヶ浜にとって不利な条件を考えたい。それは平塚先生の存在。先生は明らかに雪乃に似ている。性格や外見。この平塚先生に対して、八幡は「俺が10年、年とってたら嫁にもらうのに」と冗談っぽく思うことがあった。これがある意味本気なら、八幡の好みは《平塚先生=雪乃》ということになる(平塚先生が原作ではオタクだから、というのもあるかもしれないが)。しかしここで、反証となる存在も出てくる。それは、海老名さんだ。

なぜ海老名さんなのか。その前に、実は私は、海老名さんが一番気になるキャラである。もちろんメガネキャラということもあるかもしれない。それはおいといて、海老名さんのことを好きなのは、彼女がある意味一番屈折を抱えているからだ。こういうキャラが好きなだけというのもある。まあそれはいい。この『俺ガイル』において、八幡視点の描写を数々の登場人物が相対化しているが、そのなかで明らかに「相対化」度の高いと思われるのが、海老名さんの存在だと思う。つまり、一人称であるはずの八幡視点を客体化して見ているように描写されるのは、海老名さんが誰よりも抜けている。そこから導き出されるのは、海老名さんとのやり取りにおいて、図らずも八幡の真意が漏れ出していることだ。

八幡と海老名さんとは、修学旅行においても意味深なやり取りがあった。そして、この13巻において、とうとう(?)海老名さんは青春ラノベには異質なコトバを八幡に向ける。海老名さんは八幡に、「恋とか愛とか性とか」は「面倒だよね」と訊くのである。それに対して八幡は、「気恥かしさも気まずさもある」と思うのだが、ふつうに考えると、同級生の女子に恋愛や性の話を振られることには、恥ずかしい以上のものがある。こんなことを直截言えるのは、戸部のような男子くらいのものだが、そうではなく海老名さんが言えるのは、彼女がある意味八幡と似ているところがあるとともに、海老名さんが「[八幡自身が]海老名姫菜のその距離の取り方を信頼している」ことを知っているからだ。私は、八幡と海老名さんとは出会い方次第ではそこそこの仲になっていたかもしれないと思う。それは、海老名さんが(おそらく)腐女子ゆえに自らを客体化しなければいけない立場にあるのに自覚的なところが、八幡と似ているからだ。まあ、その腐女子ゆえに、海老名さんは八幡にぶしつけなことも訊けるわけだし、そのコトバを受けて、八幡は海老名さんに微妙なことも訊けるのである。その微妙なことが、この作品における恋愛の行末にとって肝になってくると思う。

それは何か。まず、海老名さんから「恋とか愛とか性とか」と言われて、八幡は、「俺にとってはなまじリアリティがある話だ」と思うのである。これは重要なシーンだと思う。恋愛はともかく、やはり八幡にとって性はリアリティがあるのだ。つまり、誰かに対して、八幡は性的魅力を感じているのかもしれない。そうだとしたら、その対象は誰なのか。由比ヶ浜さんである可能性は高い(なぜなら、海老名さんがよく知っているのは由比ヶ浜だから)。海老名さんは腐女子ゆえに(?)性に関してある程度距離を取っているからこそ、あけすけに語ることができる。そうしてそのことを八幡に訊けるのは、八幡の恋愛対象が誰なのかを探るとともにある程度の見当がついているからだろう。彼女が「恋とか愛とか性とか」と言った後のシークエンスには、八幡自身の気持ちのありどころが含まれていると思われる。

海老名さんは、このすぐ後に「結局、比企谷くん[八幡のこと]は私とは違うから」と言う。この「違う」とは、海老名さんが自分の発言に恋愛のことをも含ませた発言だと捉えられる。もちろんそれ以外の意味もあるだろう。海老名さんは、自分が腐女子だから恋愛できないと思っているのか、それとも性格的にそうできないと思っているのかは分らない。前者だとすると、女子高生にとって腐女子というステータス(?)は本人(の恋愛)にとってかなりの障害になるという謬見を抱かざるを得ないからかもしれない。それにしてもこのセリフは重い。ある意味この作品の中で一番きついかもしれない。ところで、この後に海老名さんは「ペシミズム」というように言うのだが、それは「ペシミズム」ではないと思う。

それはそうとして、「私とは違うから」と言われて、八幡は「……なんか、聞いた?」と海老名さんに問うのである。このセリフもまた多義的だ。それに応えて、海老名さんは「誰に?何を?」と問い返すのである。ここまでくると、読者には真意がつかみにくい。少なくとも、恋愛に関する話題が含まれていることは分かる。三人の関係の話題であるとともに、恋愛の話題であると深読みできるのである。海老名さんが由比ヶ浜から恋愛相談を受けたのだろうかと、八幡が探りを入れたともとれる。それを分かっているがゆえに海老名さんは、はぐらかすようなというか、八幡の真意を探りだすような問いを返したともとれる。そこまでのやり取りの前に、海老名さんが言った「セックスアピール」という単語を挟むところを勘案すると、海老名さんが八幡に対して彼の恋愛感情を訊きだそうとしたと読めるような会話になっている(彼女が「私にはセックスアピールがない」という時、その反面として、彼女の眼には、由比ヶ浜の性的魅力が映りこみ、そのことはまた八幡も了解していると、彼女は思っているのではないだろうか)。ほんの数ページの二人の会話は、非常に意味深で重要なものだと思われる。ここをどう読むかにおいて、八幡の気持ちがどこにあるのかを知れる一因になりうる。

その八幡が、海老名さんとのやり取りにおいて、「俺と彼女」との距離間を探りあてたという手ごたえを得るのだが、その「彼女」とは雪乃のことだろう。その距離間を詰めることがが、はたして恋愛のことなのかどうかは分からない。由比ヶ浜派からいうと、由比ヶ浜との関係を築いているように思っている八幡だからこそ、それよりも雪乃との(由比ヶ浜を含む)関係をどうするかに腐心できるのかもしれない。

以上、記事内容の多くは、由比ヶ浜結衣がハッピーに終わることを夢想して書いてきた。由比ヶ浜的には、雪乃ときちんとした対等な関係が結べて、その上で八幡に自分の想いを告げることができるような展開が望ましいのではないか、と私としては思っている。まあ、どうなるかはともかく、次巻を楽しみにしている。

【その他の本について】


ちょっと、ラノベの感想が長くなったので、以下手短に。
井上寿一『機密費外交』(講談社現代新書)を読んだ。これは、副題にある通り、「なぜ日中戦争は避けられなかったのか」というのを本筋に、満州事変から日中戦争までに、「機密費」がどう関わっていたのかを、資料を基に見る。といっても、その資料自体が非常に少なく、たいして重要なものが出てくるわけでもないので、かなり地味な感じである。でも、当時の中国で、外交官やらが接待費や宣伝費をどれだけ請求し、実際にどれだけ貰ってどのようなことをしたのかが分かって、そのあたりはおもしろかった。その中で、杉原千畝のインテリジェンス活動の功績が高く評価されている。最終的な日中の決裂は、外務省に対立した、軍部(とその強硬路線を支持したマスコミと世論)、という両者の溝にあったという構図は単純ではあるものの、そのことが一因としてあったとしたなら肝に銘じておくべきことなのだろうなぁ。

この新書の後に、中国側からのことも文学で読みたかったので、張愛玲(藤井省三・訳)『傾城の恋/封鎖』(光文社古典新訳文庫)を読んだ。非常に瑞々しい感じがしてよかった。作者はまあ、どちらかというと上級の階層に属すると思うが、日中間の緊張が迫るなか、書けるものを書いたという感じ。情勢的に書けないこともあったろうが、それでも当時の空気が知れるようなきがした。訳者の解説もよかった。

(成城比丘太郎)




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