★★☆☆☆

角の生えた帽子(宇佐美まこと/角川ホラー文庫)

投稿日:2021年3月1日 更新日:

  • 猟奇的な内容の表題作はサンプルで全文読める
  • から予想した内容とは違うねっとりとしたホラー短編集
  • どんでん返しもあるが、うーん微妙
  • おススメ度:★★☆☆☆

表題作は無味乾燥な工場業務に明け暮れる男が、毎夜リアルな婦女暴行の夢を見るというお話で、もちろん、その暴力は起こっているという設定である。この設定だけなら、ありふれたホラーなのだが、後半のオチには一工夫ある。独特の淫靡さというか、工場の渇いた描写とは対照的で、その点に面白さを感じて続きを買って読んでみた。

全部で12の短編が収めらているが、よく言えば多彩、悪く言えば最初の作風への期待を裏切られた感が強い。そして何か違和感がある。その違和感は概念的な意味での女性的な視線だろう。「古典的」男女観から言えば、男女関係が客観的に書かれたシーンでも、暴力を振るった男性より、受けた女性の情景が多い。いい、悪いではなく、好みの問題となるが、私は微妙にそれについていけなかった。

それはともかく、表題作以外では、何故か植物がメインやサブのテーマで出てくる「赤い薊」「空の旅」「城山界隈奇譚」「花のうつけ」「緑の吐息」などという作品がある。世の中には植物系のホラーも色々あるが、こういう短編集では珍しい。著者自身の趣味が反映されていると思われる。

男性に向けられた憎悪がテーマであったり、どこか不条理な怪談があったり、人情劇のような話も見受けられるなど、それなりに楽しめる。以下はネタバレありで、気になった話を取り上げてみたい。

表題作は、前述の通りの内容だが、オチは死んだ三つ子の兄弟の呪いというよく分からないもの。双生児にはテレパシー的なものがあって互いに同じことを知る……という巷説が元ネタだが、正直に言ってあまり冴えた落とし方で無いな、と思った。しかし、女性暴行の夢から主人公自身も静かに狂っていく様子は上手く描かれていると思う。

「あなたの望み通りのものを」は、老人性痴呆症の老婆に、偽の幸せな記憶のビデオを見せ続けるというちょっときわどいネタ。主人公は中年ヘルパーだが、子供亡くしたことがきっかけで、夫はアルコール依存症になっている。そして、彼女が次に考えたのはその幸せなビデオを夫のために作ること……と、まあそんな筋立て。この設定、どこかで似たものを見たが思い出せない。まあ、こんな会社は現実には無いわけで、一種のファンタジーホラー。後味は哀愁か。リアリティの欠如を除けばまあ読める。

「縁切り」はドロドロの浮気が絡む話。親子二代に渡って殺人を犯す女たちの情念が静かに描かれている。ただ、やはりこの手の浮気話は苦手だな。特に怖くは無いが、オチに一応意外性を持たせようとしている。「夏休みのケイカク」も同じような系譜に位置する。こちらも怨念は感じるが、あまり綺麗に終わらない。

逆に「左利きの鬼」はそこまでびっくりしないが、どんでん返しがあり、かつ、救いもあるお話だ。自分が産んだ子供と二人で逃亡した女性……実は夫の妾の子供を拐って育てていたという視点逆転が起きる。そのきっかけは架空の「おばちゃん」なのだが、これが鬼子母神を作者的に解釈したキャラクターになっている。これもファンタジーっぽいが、意外に説得力があるのは、ラストに希望があるからだろうか? 不思議だ。

ラストの「湿原の女神」が一番面白かった。バイクで事故って片足を無くした青年の物語だが、そこに不思議な「湿原の女神」とそのオトコである「イタチ」が出てきてこのやりとりが憎めない。怪異譚ではあるが、ラストは家族ものとしての温かさもあり、悪く無いと思う。どんでん返しも一番効いている。イマイチ、湿原と女神が結びつかないのが難といえば難。

と、ここまで書いてきて、私はこの本にほとんど興味を失っていることに気がついた。さっき目の前を通り過ぎた他人の姿を必死に思い出そうとしているような気分だ。今まで、こんな気持ちでレビューを書いたことがなかったのだが、今回、というか最近はこうだ。

前回、沢木耕太郎の「深夜特急」を突発的に紹介したが、実は私が浸っていた世界、あの頃の香港もマカオもタイもシンガポールももう無い。私にとっては最高の娯楽が、生々しいフィクションが、過去というファンタジーの一緒に姿を変えてしまった。いや、私の視力がぼやけていっているのだろう。

という私的な理由で、曖昧な感想になったが、ホラー好きならまあ……という一冊。血が沸るようなことはないだろう。

余談。「鬼滅の刃」も「呪術廻戦」も一通り読んだのだが、思い出すのは過去のバトルもののクライマックスばかりだった。虎杖と孫悟空を重ねてしまい、これもまた不思議なブレを感じつつ、その様子を眺めていた。今はこの繰り返し感、或いは「飽き」という悪魔を何とか捻じ伏せねばならない時なのかもしれない。そしてまた私は小さな愛を握りつぶしたりもした。

(きうら)


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