3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★☆☆

もちもちの木(斎藤隆介 (著)/‎ 滝平二郎(イラスト) /創作絵本6) ~怖いけど怪談じゃなかった

投稿日:2018年3月1日 更新日:

  • 心温まる話と知って驚愕した
  • 小学生時代のトラウマ絵本
  • 今ならわかる、分かるが。
  • おススメ度:★★★☆☆

この作品は私の小学生時代のトラウマ作品で、表紙の画像を見るだけで、無意識に恐怖がこみ上げてくるという状態だ。そんなわけで、つい先ほどまで、私はずっとこれはホラー童話だと思っていた(笑)。あらすじを読んで驚愕した。ただのいい話なのである。と、すれば私はあの切り絵のもつ異様な画風に恐怖を感じていたというのだろうか。

今調べてみると、娘(小三)の教科書にもしっかり収録されていた。教科書の転載はコードに触れるかどうかどうか分からないが、一応雰囲気だけ。

あらすじも驚くほど簡単で、爺様と暮らす豆太は気が小さく、夜に見る家の外のでかい木(もちもちの木)が怖い。ある日、爺様が病気になり、医者を呼びに行くために勇気を振り絞って夜にもちもちの木を通り過ぎる。そして帰ってくると、もちもちの木に明かりがともっていて(山の神様の祭り)美しい光景を見る。が、豆太の気は小さいままであった。

という、シンプルな内容で、どちらかというと少年のやさしさと成長を描く「いい話」でホラー要素が全くない。しかし、何度も言うが、滝平二郎のイラストが怖かったのだろう。

ここで振り返ってみると、おそらく私は、同時期にテレビで放送されていた「まんが日本昔ばなし」と混同しているのではないかと思えてきた。昔ばなしは自由な画風だったため、こういう切り絵風の回も度々あった。

細い細い記憶をたどっていくと、おそらく私は「キジも鳴かずば」という昔ばなしのアニメと混同している。こちらの話は、川が毎年氾濫する村に弥平とお千代という親子がいた。ある時、お千代が病気になるが貧乏で医者も呼べない。これを見た父親は娘がおはぎを食べたいというのを聞いて、盗みを働きおはぎを作る。それを食べた娘は回復するが、そのことを手まり歌で「あずきまんまたべた」と歌ってしまう。これが村人にばれて弥平は結局人柱として殺されてしまう。川の氾濫は治まるが、長じたお千代は「キジも鳴かずば」という落ちになる。

この病気というキーワードを通じて、もちもちの木のイラストレーションと「キジも鳴かずば」のエピソードが脳内結合し、結果として、ホラーとして記憶されていたのだろう。因みにどちらも含蓄のある話なので、大人が読んでも面白いと思う。

よくよく考えてみるとガチンコホラーが教科書に載っている訳はなく、初めから間違っていたことになるが長年の疑問が氷解した。一人探偵ナイトスクープのような展開になってしまったが、一番の驚きは「もちもちの木」が30幾余年を経ても読まれ続けていることだった。そして、子どもの記憶というのは長く残るもの。いま、小さい人たちは、自分たちが思っている以上に学習に向いた体質だということを自覚して、勉強してほしい。今は、何でも覚えるのが大変だ。

(きうら)


-★★★☆☆
-,

執筆者:

関連記事

平面いぬ。 (乙一/集英社)

表題作ほか、4つの短編を収録 ホラー要素よりファンタジー要素が強い 独自の世界観とどこか暖かい読後感 おススメ度:★★★☆☆ 収録の順番でいえば、和風メデゥーサの話を描く「意志の目」、一種の幽霊譚とな …

でえれえ、やっちもねえ (岩井志麻子/角川ホラー文庫)※ほぼネタバレ無し

あの作品のまさかの続編⁉︎ うーん、いつもの岩井志麻子節 何となく気持ちわるい おススメ度:★★★☆☆ 「ぼっけえ、きょうてえ」はJホラー史に残る強烈な不気味さと鋭さを備えた傑作だと思う。未だに岡山弁 …

翳りゆく夏(赤井三尋/講談社) ~概要と感想、おススメ点など

20年前の誘拐事件の謎を追う 錯綜する人間関係をスピーディに 意外性と引き替えに、ラストにも疑問も おススメ度:★★★✩✩ (あらすじ)「誘拐犯の娘が新聞社の記者に内定」という「事件」をきっかけに、2 …

スイート・リトル・ベイビー(牧野修/角川ホラー文庫) ~完全ネタバレあり

児童虐待がテーマのホラー Jホラーのお手本のようで読ませる ただし、オチが破綻してる おススメ度:★★★☆☆ まずこれは極め付けの悪書。読んでおいて何だが、高校生以下には読ませたく無い。テーマの児童虐 …

忌録: document X Kindle版(阿澄思惟/A.SMITHEE)

まあ、中途半端なフェイクドキュメント 実話ベースを謳っている 少々狙いすぎか おススメ度:★★★☆☆ 実際起った事件と思しき4つの事件「みさき」「光子菩薩」「忌避(仮)」「綾のーと。」を元に、出来得る …

アーカイブ