3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★☆☆

ゾンビ・パラサイト(小澤祥司/岩波科学ライブラリー) ~あらましと軽いネタバレ

投稿日:2017年6月23日 更新日:

  • 「ホスト(=寄生先の生物)を操る寄生生物たち」について。
  • ゾンビというタイトルだが、生ける屍のことではない。
  • 特に怖がる要素はない。
  • おススメ度:★★★☆☆

タイトルに「ゾンビ」とあるので、なんか物騒なかんじもするが、これは「ブードゥー教」のそれではないし、ホラー映画などでおなじみのものとも違う。寄生した相手を乗っ取り、行動を操る寄生生物(パラサイト)のことについて書かれた本。パラサイトの能力の一つである、「パラサイト・マニピュレーション(ホストを操りゾンビ化する)」について主に書かれている。

本書の中で最初にのべられ、一番印象的なのが、「ゾンビアリ」。例えば、「タイのジャングルに生息するダイクアリ」に寄生する「オフィオコルディケプス・ユニラテラリス」という冬虫夏草菌の一種は、感染したアリの行動を奪い、自らの菌の増殖に適した環境へと導いていく。この「ゾンビアリ」については、以前に何度も本などで見たことがあるのだが、一度ネット検索で、その感染した姿を見てみてください。アリの頭から、まち針のようなものがつきだしていて、《操られてる感》がよくわかります。

ところで、著者は、この後に続いて、人間にも感染してゾンビ化する(人を操る)菌が出現しないとも限らないと書いているが、別に今は見つかっていないとも書いているし(どっちやねん)、そもそも、「ゾンビアリ」自体は死んでから生き返らされたわけでもないので、厳密にはゾンビではない。章の最後で、「菌類とアルツハイマー病」との何らかの関係性をとりあげて、「人類を含む哺乳類と菌類との攻防は今まさに進行中」と書いてあるのだが、それくらいの表現でよかったのでは、と思う。

カマキリやカマドウマに寄生するハリガネムは、ホストを操って、水辺へと導いて(いるように見えるらしい)、最終的に池や川などに飛び込ませ溺死させ、その身体からハリガネムシはとび出してくる。私は、散歩中に、その側をよく通る池で、何回もこのハリガネムシを見かけたのだが、一度も池に飛び込むカマキリの姿は見たことがない。小川を泳ぐカマキリなら見たことはあるが、ネットで調べたところ、カマキリが川を泳ぎきる姿は、よく見かけられているようだ。

ホストを食い尽くす昆虫の「捕食寄生」もなかなかショッキングだ。私は、小学生の時に飼っていた、蝶の幼虫(名前は忘れた)に、何かのハチが卵をうみつけて、その幼虫から小バエのようなハチが、うじゃうじゃ湧きだして来たのを見た時は、かなしかった。その他、「体の中のエイリアン」という章題の、「ゾンビ化したホストをボディーガードに」する項目や、「クモをゾンビ化するクモヒメバチ」の項目は、興味深い。

最後の章は、ネコを「終宿主」とする「トキソプラズマ」と、「中間宿主」であるヒトとの関係。この「トキソプラズマ」は、全人類の約3割に寄生しているといわれる、「われわれの身近で“最も繁栄したパラサイト”」。これに感染したネズミはネコを恐れなくなるという。そのネズミをネコが捕食することで、この「トキソプラズマ」は、ネズミからネコへと移動しているようだ。また、「トキソプラズマ」と人間の精神疾患との関係もあるようなのだが、まだ「仮説」らしいので、私もなんとも言えない。著者が言う、一万年前からはじまった、ネコ・ネズミ・ヒトとの共生に関する「想像」も、結果論であって、これまたなんとも言えない。別に「トキソプラズマ」がヒトを操ったというわけではあるまいし……。

(成城比丘太郎)



(楽天)

-★★★☆☆
-, ,

執筆者:

関連記事

忌録: document X Kindle版(阿澄思惟/A.SMITHEE)

まあ、中途半端なフェイクドキュメント 実話ベースを謳っている 少々狙いすぎか おススメ度:★★★☆☆ 実際起った事件と思しき4つの事件「みさき」「光子菩薩」「忌避(仮)」「綾のーと。」を元に、出来得る …

再読の秋(成城比丘太郎のコラム-06)

「コラム」という名の穴埋め企画(二度目) 過去に読んだ本を再読する 現在再読中の本について おススメ度:★★★☆☆ 【はじめに】 「~の秋」というと、世間ではよく読書の秋とか言われたりしますが、真正の …

君主論(マキャヴェッリ〔著〕森川辰文〔訳〕/光文社古典新訳文庫)

マキャヴェリズムの語源となった書物です。 当時のイタリア(ルネサンス)に、新しい君主像という処方箋を。 はっきり言うと、本書の訳文には読みにくい部分があります。 おススメ度:★★★☆☆ 「マキャヴェリ …

『ゆるキャン△』と「日常感」(1) ゆるキャン△(あfろ/芳文社)<前篇>

アニメの背景美術にみる「日常感」。 どこでもない場所における、誰でもない人たちによる、放縦で平和な会話です。 かなり主観的な長文感想です(二部構成)。 おススメ度:★★★☆☆ <前篇> 【登場人物】 …

6時間後に君は死ぬ(高野和明/講談社文庫) ~あらすじとそれに関する軽いネタバレ

未来予知ができる青年が関わる短編連作 落ちは読めるが面白い ただ、少々わきが甘い気もする おススメ度:★★★✩✩ 高野氏の著作は結構読んでいるが、失礼ながら当たり外れが激しい方で、外れると手に追えない …

アーカイブ