3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★★★

夜と霧 新版(ヴィクトール・E・フランクル (著)・ 池田香代子 (翻訳)/みすず書房) ~感想と紹介

投稿日:2017年3月18日 更新日:

  • ナチスの強制収容所に収容された心理学者の冷静な回想
  • 読むと非常に重い現実が現れる。娯楽要素はゼロ
  • 誰もが絶対に読むべき本だと私は思う
  • おススメ度:★★★★★

皆さんは、人間の「性善説」と「性悪説」というのをご存じだろうか。非常に簡単に解説すると「性善説」-人間はもともと良い人間だが、悪いことをすることもある、「性悪説」-人間はもともと悪い人間だが、努力によって良くしている、という意味だ。本来はもっと違う深い意味があったと思うが、とりあえず、それを前提に話を勧めたい(詳しくは性善説/性悪説(Wiki))

私の知っていた一人の人間は「性悪説」の支持者だった。表面的には有能で明るく冗談も言って仕事のできる人間だ。家族も大切にするし友達も多いし、思いやりも持っている理想的な社会人だ。でも、その人間は「性悪説」を信じており、他人は決して信用できない、裏切るものだ、という信念を持っていた。それが合っているか間違っているのか、私には判断できない。でも、単純にそういう考え方が「嫌」だった。単に甘いだけと失笑する方も多数いるだろう。現実には、その方が正しいという気もする。でも「一部の例外を除き」そういう人間は少ない、と思いたいのが私の本音だ。もちろん、いい所と悪い所が混在している場合も多いので、切り分けることはそもそもできないかも知れない。

皆さんは人間は「性善」なのか「性悪」なのか、どちらだと思いますか?

その疑問に答えてくれるのが、この本だ。実際に強制収容所に収監された著者が、非常に冷静な視点で、実体験を綴りつつ、分析しているというのが本の内容だ。正直に言って、戦争の本は苦手だ。フィクションならどんな悲劇も笑い飛ばせるが、現実はそうできない。だから苦手なのだ。それでも、誰かにおススメ本を3冊教えて欲しいと聞かれたら、その一冊に必ずこの本を入れる。

そう、この本は「性善説」を信じるに足る根拠を示してくれる。例えば、自分が死にそうな程飢えているのに、他人に食べ物を与えようとする人が実際にいたこと。ナチス側にも収監者を助けようとした者がいたことなど、他にも無数にある。その逆の例も出てくる。

文章は終始冷静で、決して、残酷さを感情的にあおったりはしない。ただ、その冷静な視点が全ての「真実」を語ってくれる。これを読んで「甘い」と思う人もいるかも知れない。でも、私は「素晴らしい」と思った。「絶対に読むべき」だと思った。

決して「面白い」ものではないので、エンタメ系の小説を期待している人はスルーして欲しい。絶対に後悔する。誤解のないように書くと、エンタメ系の小説もすごく大切だし、大好きだ。本の中で人間が死んでスカッとすることもある。でも「夜と霧」という本は、世の中に「必要」だと思う。ぜひ、ご一読を。

ちなみにこの本は「新版」で「旧版」もある。違いは訳者で、内容は同じだが、簡単に言うと「新版」の方がソフトな内容で、「旧版」は生々しさがある。「新版」には写真はないが、「旧版」は死体の写真なども載っている。戦争が遠くなった今、読みやすい「新版」の方がおススメだが、興味があれば「旧版」も読んでみて欲しい。

(きうら)


夜と霧新版 [ ヴィクトル・エミール・フランクル ]


-★★★★★
-, ,

執筆者:

関連記事

きまぐれオレンジ☆ロード(まつもと泉)

さよならオレンジロード 追悼記事みたいなもの 劇場版について 劇場版の衝撃度:★★★★★ 去る10月6日に漫画家のまつもと泉先生が亡くなった、という報にふれた。ふだん、ちょっとした有名人が亡くなっても …

『知っておきたい地球科学』(鎌田浩毅、岩波新書)〜「読書メモ(79)」

「読書メモ079」 ビッグバンから地震や火山まで。 阪神淡路大震災から28年。 オススメ度:★★★★☆ 【近況】 今日、新しい洗濯機が家に来ました。今までお疲れさまでした、古い洗濯機。 そして、今夜の …

模倣犯(1-5) (宮部みゆき/新潮文庫)

続婦女誘拐殺人事件がテーマのサスペンス小説 事件が複数の視点で描かれる。非常にスリリングな展開 気になる点ももちろんあるが、ページをめくる手が止まらない大傑作 おススメ度:★★★★★/li> 「 …

あしたのジョー 〜力石戦まで(梶原一騎・原作/ちばてつや・画/講談社)

孤独な男の不屈の闘志 前半はややスローな展開 ジョーと力石の魂の交流に感動 オススメ度:★★★★★ (あらまし)私以上のお年の読者の方には説明不要と思うが、天涯孤独の流れ者、不良少年ジョーが汚いドヤ街 …

あしたのジョー 〜力石戦後から最終話まで(梶原一騎・原作/ちばてつや・画/講談社)

不器用なジョーの生き様に号泣必至 ラスト2巻の鬼気迫る緊張感 デッサンどうこうではなく漫画が上手い オススメ度:★★★★★ (あらまし)宿命のライバルと正々堂々と渡り合った結果、ジョーは力石に敗れる。 …

アーカイブ