- 崩壊後の世界で働く男のSF小説
- 短編7つで一つの小説になっている
- とにかくアツくて独特で魅力的。大好きです!
- おススメ度:★★★★★(普通の人には★★★~★★★★くらい?)
個人的なことで恐縮だが、この本の紹介でちょうど100冊目の紹介になるので、今回はちょっと私のワガママで「一番好きな本」を紹介、というか絶賛したい。だから客観的ではない「ファンレターみないなもの」なので、冷静な批評はAmazonのレビューなどをご参考に。ちなみに「怖い」要素は少なめだ。
まず、私は椎名誠氏の大ファンである。だから今回だけ、以降「氏」ではなく「先生」と書く。著作の多い方だが(ちょっとググると844冊と出てきた!)その70%以上は読んでいる自信がある。代表作はもちろんすべて読んだ。もともと椎名先生は商業新聞の編集者からスタートし、エッセーでデビューされた。前にも書いたが、その後、エッセー、SF、私小説と3つのジャンルに傑作を多数残されている。そのSFの中で、もっとも優れている小説がこの一冊だ。
あらすじ-何かの戦争で「北政府」に負けて崩壊後した日本らしき世界。そこで、この小説の主人公たちは壊れたビルに住んだり、変な生き物に襲われたりするが、逞しく「仕事」をして生きている。7つの短編小説が合わさって一つの長編小説になっている構造で、それぞれが微妙に関連しているというのがミソだ。ある場面では、別の場面の主人公がわき役として出てくる。
一番の魅力は「男の生きざま」と「心意気」だ。現代日本と比べると、酷く不便で食べるにも困るような世界で、それを「悲観」も「楽観」もしない男たちが、淡々と「働く」のである。海は油まみれ、人口激減、「北政府」の支配下、怪しい集団や生き物が襲ってくる、そんな状態でただ、淡々と生きている人々の姿が描かれているのだが、そこに痺れるのだ。
そもそも最初の一遍は「倉庫の管理業務」に就職する男の話から始まるのである。ナンダナンダと思っていると、パターンを変えて色んな「仕事」が出てくる。「倉庫業務」は、椎名先生の実体験に基づくものであるが、リアル且つSFになっているのが不思議だ。
もう一つ、独特の、あるいは意味の分からない単語が多数登場するが、それが非常に面白い。「魚乱+魚歯」という造語で「カミツキウオ」と読むのをはじめ、「炸裂カンノン銃」「三足踊り豆」「眼鏡踊り子製菓の『ほじほじくん』」「旧式の九足歩行機『カニムカデ』」等々。詳しい説明のない場合も多いが、私など、その単語を聞くだけでワクワクする。この命名センスは唯一無二だ。ただし、必ず順番に読むこと。
特に5つ目のエピソード、「肋堰夜襲作戦(あばらだむやしゅうさくせん)」がおススメだ。この短編のラストには心が揺さぶられる。「フーゼル」という名前の人物がいるのだが、彼が実に魅力的だ。きっとここで、「あっ」と思う人も多いだろう。どれも素晴らしい短編だが、とにかく面白いエピソードだ。
上記のように造語が羅列されるので、読みにくいかも知れないが、その分、何度読んでも新しい発見がある。もう20回以上読み直したが、未だにそのディティールに感動することがある。それほど、魅力的な世界なのだ。
変な意味ではなく「男が男に惚れる」そんなアツイ一冊。SF嫌いの方もそうでない方も、未読の方は騙されたと思ってぜひ、ご一読を!
以上、100冊目の「絶賛」でした。この作品の直接の続編はないが、同じ世界を舞台にしたと思われる小説は「銀天公社の偽月」など、多数書かれているので、よければそちらもどうぞ。
椎名先生の今後を活躍を心よりご祈念いたします!
(きうら)
追記:表紙が新(下のAmazonの画像)と旧(下の楽天の画像)の二種類あるが、旧の方が好き。新版は漫画化された際の作者が描かれているが、旧版の方がイメージが固定しないのでいいと思うので、変な話だが、古本版の方がいいと思います。
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