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★★★☆☆

悪の教典(貴志祐介/文藝春秋)~あらすじとそれに関する軽いネタバレ、感想

投稿日:2017年3月29日 更新日:

  • 人気者教師のとんでもない素顔を描く学園ホラー・ミステリ
  • 残酷描写はかなり多め。
  • 終盤はあの小説にそっくり。
  • おススメ度:★★★☆☆

このブログでも何度も取り上げている貴志祐介氏の作品。発表当年は「このミス一位」「週刊文春一位」など華々しい評価を受けた作品で、映画化もされ、非常に有名だと思う。
しかし、はっきり言うとこれは作者の最良の作品ではない。もっとひどいことを言わせてもらえば凡作だ。「黒い家」や「クリムゾンの迷宮」、「新世界より」の方が明らかに優れている。

(あらすじ)高校の英語教師である蓮実聖司(生徒間での通称はハスミン)は、イケメンで頭脳明晰、生徒を初め、学校中の人気者。しかし、その素顔は凄まじい残虐性、というか、相手の痛みを感じないいわゆるサイコパスだった……という筋書き。長い話だが、特に後半は血みどろの展開が連発する。それまでもかなり陰湿でキモイ描写が多い。

著者は個人的に大好きだが、この話を「無理して書いているな」「心がこもってないな」という印象を受けた。読者に受けるための要素を一生懸命に調査し、それを作品として仕上げた。それは商業的に成功した。プロがプロの仕事をし、正当に評価されたと言ってもいい。でも、である。貴志祐介はこんな程度ではないはずなのだ。これでは、そこら辺の凡百作家と変わらない。しかも、自ら苦手とする恋愛やエロ、若者要素を取り込んでいる。

違う見方をすると、敢えて苦手なジャンルに踏み込んで、作家としての幅を広げようとしているようにも見える。そのあと「新世界より」を発表し、それは傑作だと思うので、この試みは必要だと思う。コアな話で申し訳ないが、私が好きなスピッツが、POP路線を脱却してロック路線を取り入れるために「隼(Ama)」というアルバムを作ったのと同様に、一度、自分を壊して見たかったのかも知れない。
内容は上記の通りで、簡単に言えば、イケメン教師が殺人しまくるだけの内容だ。後半はまんま「あの小説(ネタバレ)」と同じような雰囲気になる。あまり積極的におススメはしないが、そこはプロ作家。払った値段分くらいは楽しませてくれる作品でもある。

ちなみに作者には「雀蜂」というさらにどうしようもない超駄作がある。コンスタントに良作を送り続けるのは、作者ほどの天才でも難しいのだろう。「雀蜂」はまた後日紹介してみます。

(きうら)


(楽天)


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