- 突如横須賀だけを襲った謎の巨大甲殻類。
- 潜水艦にとり残された自衛隊員と、13人の子供たち。
- 警察組織(特に機動隊員)の意地と奮闘ぶり。
- おススメ度:★★★☆☆
本書は、きうら氏が以前紹介していた(2017年3月25日)のですが、私はその記事を読んだはずなのをすっかり忘れていて、先日友人からの「おもしろいよ」という推薦もあって、読み始めたところ、もうすでにレヴューはしていると知らされたのですが、「まあそれでもいいか、どうせやさぐれサイトだし」と不適当ないいわけで、今回軽い感じで感想などを書くことにしました。ですので、簡単な導入部分は、以前の紹介文を読んでいただければありがたいです。
ところで、私は有川浩の本を読んだことがない(もしくは読んだ記憶がない)のですが、一応著書一覧をみてみたら、アニメ『図書館戦争』とドラマ『フリーター、家を買う。』をみたことがありました。『フリーター~』は、ところどころ首をかしげるような設定はあったものの、最後まで見続けました。ところが、『図書館戦争』はあまりのひどさにすぐに視聴をやめました。図書(館)を守るのに武力(暴力)を使用するというのが、なんだかなぁという感想だったのですが、何より、公共図書館の役割がただ蔵書を管理するだけという面でしか捉えられていないのが非常にかなしくて、みていられなかったのですが、もちろん、これは最後までみていない上に、原作すら読んでいない感想なので、詳しい内容は棚上げしてのことですが。
さて、本書は、設定としては基本ミリタリー的なものに拠っていて、その辺に疎い私には何も文句を言うすべがありません(文句を言う出来でもないですが)。最初に出版されたのが2005年ということのようなので、ネット環境などで古い面はあるのでしょうが、あまり気になりません。襲い来る巨大な(1m~3m級)甲殻類のモンスターにも、発生過程に関しての簡単な説明はありますが、それもこの物語のスパイス程度です。
では、この物語を進めるものは何なのかというと、2つあります。まず、半分もの記述スペースをとるのが、折悪しく潜水艦に居残りさせられていた二人の自衛隊員と、その潜水艦に避難誘導されてきた子供たち(小学生から高校生まで)との、救出されるまでの不和や衝突をふくめた人間ドラマです。とにかく潜水艦内は狭い(そして臭くなる)のです。私の親戚である元自衛隊員の人は、研修で一か月ほど潜水艦内での生活をしたようなのですが、(伝え聞く話によると)とにかく精神的にきついとのこと(精神に変調をきたした隊員もいたとのこと)。子供たちは先の見えない中、友達がいるとはいえ、いつ終わるかわからない避難生活によく耐えたものです。ここでは、子供たちの実際の生活環境が、この艦内生活においても反映され、大人が時に翻弄される様がおもしろいです(翻弄されない者もいるのですが)。
もう一つが、実際に巨大甲殻類と対峙することになる警察(機動隊員)です。事件は、もとい戦いは現場で起こってるんだ的なかんじで、意思決定の遅い官邸に憤りつつ、自衛隊出動までの足止めとして奮闘する彼ら、というのは非常に図式的です。別にそれは悪くないのですが、それを中心に書くために、巨大甲殻類には全くおそろしさを感じないし、そもそも警察組織内部のやりとりの描写が薄っぺらいので、スプラッター表現もとくにこれといった印象もなくなります。これはもしかしたら、私の感受性のアンテナ(の向き)が変わっただけかもしれませんが。
どちらかというと、潜水艦内での子供たちと大人との交流の方がおもしろいですかね。子供たちの関係性や、マスコミ批判に役人批判などに安直で教科書的な感じもみられますが、まあ、おもしろさが削がれるわけではないですし、ミリタリーに、ほほえましいラブロマンスが付け加わった話として、読後感は悪くないです。ちょうど、フルマラソン中に立ち寄ったカフェで午後のティータイムを楽しむみたいな感じで読むことができました。
(成城比丘太郎)