- やや近未来の高校生たちが遭遇する「夜」の恐怖
- 興味深い設定だが、詰めが甘い気がする
- 読みやすい&ラストがなかなか
- おススメ度:★★★☆☆
(あらすじ)少し先の未来、第3次オイルショックがきっかけで夜間の電力供給が完全にストップした社会。それは病院や警察でも同じで、基本、人々は政府が設定した夜が来ると、家に閉じこもって出てはいけない事になっている。主人公たちは、中間テストが高校生四人で、主人公扱いのアキラ、姉御肌のキョウカ、可愛い娘でアキラが好意を持っているエミ、優等生のマサシというメンバー。彼らはキョウカの家に泊まるという口実で、夜の街の探索に出かけるのだが、そこで出会ったのはある存在だった……。
上記の設定が興味深かったので読んでみた。非常にライトな文章で、ラノベとは言わないが、それに近い感覚がある。ただし「青春」要素は薄めであるし、残酷描写もあるが、それほど粘着質な感じはない。性的な描写はない。つまり読みやすい。
半面、非常に設定が大雑把というか、穴が多く、読んでいるうちは楽しいが、よくよく考えてみると話が成立しないレベルで矛盾がある。それについて書きたいので、以下は中盤までのネタバレとなるので、ご注意を。但し、なかなか秀逸なオチは書かないので、読まれても大きく興が削がれることは無いと思う。
以下、中程度のネタバレ。
彼らが夜の街で出会うのは、モンスターでも幽霊でもなく、夜陰に紛れて殺人を繰り返す「殺人サークル」である。要は彼らと高校生たちの鬼ごっこのような構図になるのだが、暗視ゴーグルや仲間内でのいざこざ、サークル側の事情などを絡めつつ話は展開する。状況を限定して駆け引きを楽しむタイプの物語になっている。
矛盾というのは、電力不足(乾電池が5000円する)が原因で、夜は無人になるという町という設定。金持ちは自家発電しているらしいということだが、冷蔵庫も止まるという。ただ、ちょっと考えると、警察機能が完全に停止しているはずはないし、病院も止まるというのは考えにくい(一応、緊急の窓口はあるがほとんどつながらないというエスケープはある)。いくら電力不足でも、政府が崩壊しているならいざ知らず、現実では警察機能や救急機能だけは残り、夜間の哨戒任務は行われるだろう。なぜなら、朝になると警察機構は復活しているのである。
つまり、夜、出歩いてはいけないという理由付けが弱い。また、高校生が勝手に出歩ける程度には緩い監視しかされておらず、例えば夜間はシェルターに入るといった設定でもないので、どことなく間が抜けている。特殊な緊張感に満ちた都会というよりは、単に人の少ない田舎というイメージだ。
その辺を割り切って考えてみると、突飛な設定ではないので、読みやすさがある。ただ、殺人サークル側も途中から、行動原理を変えているような節があり、色々不可解な謎が残る。新世代サバイバルホラーと銘打たれているが、以上のように欠陥と思われる設定が多数ある。
ただ、ラストの一節はある意味本編よりホラーじみていて、軽く衝撃を受けた。そこは評価したい。ホラー小説として、中々いい終わり方だと思う。途中はモヤモヤするが、この一節で★一つ分を足した感じだ。それだけに途中の設定をもうちょっと何とか……と思わないでもないが、出来上がった作品をどうすることもできないので、今回はこの辺で。軽いホラーを読みたい時に、まずまずフィットする一冊だと思います。
(きうら)