3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★☆☆

魔境遊撃隊・第一部/第二部(栗本薫/角川文庫)

投稿日:2018年3月27日 更新日:

  • 「栗本薫」が登場する、南島でのクトゥルー作品
  • ライトなエンタメで、とくに怖くはない。
  • 「グイン・サーガ」の着想を得たという記念碑的作品
  • おススメ度:★★★☆☆

これまた、『All Over クトゥルー(Ama)』を読んでいて、本作のことも載っていたので読んでみました。それについて書く前に、ちょっとだけ先述の「クトゥルー本」について。巷では(?)あまり評判はよろしくない。たしかに、編集作業がいっぱいいっぱいだったためか、創作物がどういう順番で並んでいるのか分からないし、索引も付いていないという不親切。これが、1,500円くらいなら特に文句はないのですが…(だから、とくに買わなくてもよかったかな、と)。あと、評論などのタイトルだけでも載せてくれたらよかったのになぁ。これについては、続編があれば期待したい。まあでも、知らないコミックとかあるのでおもしろかったが、ちょっと網羅しすぎの感もある。少なくとも、現代のホラー作家はもとより、一般小説の作家でも、クトゥルー神話に(良くも悪くも)影響されたということはよく分かる。ここに載せられていなくとも、そういう作品もあるのでしょうね。

さて、その『AllOverクトゥルー』にこの『魔境遊撃隊』の項目があり、はて、これはどのような話だったかなと、ケースにしまってあった本書を取り出してちょっと読みだしたところ、これは読んだことがあるはずなのに、まったくその内容は忘却の彼方であることが発覚し、でもなんとなく覚えているなぁと、読み続けていたら、あっという間に読み終わっていました。なぜかというと、おそろしいほどに栗本薫節のオンパレードで、どこかで見たフレーズばかり。しかも、流れるように書いているので、読むほうはその流れに何のストレスもなく漂っていける。それはしかし、この作者のことだから仕方ないのですが。

物語の中身は、作家として活躍している(?)栗本薫(=男性)が、友人に半ばだまされて、南洋のセントジョセフ島へと冒険行にでるというもので、それ以外にはとくに書くことはありません。その栗本薫くんは、おそらく「ぼくら」シリーズの主人公ではあると思います。ちょうどオカルト作品(『魔界水滸伝』のことでしょう)を発表していた栗本薫は、オカルトに通暁したところと自身のもつ第六感(と推理探偵的なところ)をみこまれて、冒険への同行を依頼されます。

その依頼をしたのは、印南薫という、同じ薫という名前を持つ、美少年です。このもう一人の薫は、作者である栗本薫のペルソナであり、また、作中栗本薫(=ホームズというあだ名をもつことになります)との(自己)対話相手になっているようです。ホームズの薫は、この印南薫のナイトとして、彼のことを守るという役目を自ら負います。しかし、島に住む謎の美少女メナという存在のおかげで(?)、単なるBLものに陥るのを妨げています。

島へ共に行くのは、二人の他に、剣士の秋月慎吾、雷電博士、鮫島日光・月光兄弟(こいつら、なんか戸愚呂兄弟みたい)、印南薫の使用人の合計七人です。彼らが赴いた島で待ち受けていたのは、数人のあやしげなイギリス人たち。島にある謎の巨石群とは何か。印南薫を付け狙う月十字団とは何か。島に住まうガンボバ族とは何か。その他にも、前半では謎があれこれ出てきて、それなりに冒険ものの体は保っています。

後半である第二部になると、一応クトゥルー関連の恐怖は出てきますが、まあそれほどではありません。クトゥルーに関していうと、『魔界水滸伝』というフィクションに書かれたことが、実は現実の世界で起こっていたという、よくあるクトゥルーものの形をとっています。それ以外では、まあ、何というか、小栗虫太郎、夢野久作あたりを模して書かれたという本作は、残念ながら異境冒険ものとしてはイマイチです。ただ、唯一、「グイン・サーガ」執筆の着想をある壁画から得たというところは興味深いですし、剣士の秋月をモデルにイシュトヴァーンを思いついたというのもまた、なんかそんなかんじだなぁと思った次第ですね。

(成城比丘太郎)



-★★★☆☆
-,

執筆者:

関連記事

放送禁止(長江俊和/角川ホラー文庫)

放送禁止のドキュメンタリーのレポートという形式 もともとがフェイク・ドキュメンタリー どちらかというと意味が分かると怖い話 おススメ度:★★★☆☆ 発行されたのが10年以上前だが、あまりそんなことは感 …

クリーピー (前川裕/光文社文庫) ネタバレあり

「不気味な隣人」がテーマ 途中までは傑作感がある 期待と落胆 おススメ度:★★★☆☆ タイトルの意味は本書の冒頭で、 creepy (恐怖のために)ぞっと身の毛がよだつような; 気味の悪い(『小学館ラ …

黒いピラミッド(福士俊哉/角川ホラー文庫)※完全ネタバレあり

とにかく強引に黒いピラミッド エジプト周りの描写はしっかり でも、結局…… おススメ度:★★★☆☆ (本の裏から転載)将来を嘱望された古代エジプト研究者の男が、教授を撲殺し、大学屋上から投身自殺した。 …

追悼・白土三平 ~再掲・カムイ伝全集 第一部(1)(白土三平/小学館)

今年は大物漫画家が亡くなることが多く、個人的に大変ショックを受けている。白土三平(あえて敬称は略する)もそうだ。前にも書いたが私の3大トラウマ漫画が「サスケ」「はだしのゲン」「ザ・サバイバル」である( …

忌録: document X Kindle版(阿澄思惟/A.SMITHEE)

まあ、中途半端なフェイクドキュメント 実話ベースを謳っている 少々狙いすぎか おススメ度:★★★☆☆ 実際起った事件と思しき4つの事件「みさき」「光子菩薩」「忌避(仮)」「綾のーと。」を元に、出来得る …

アーカイブ