- 放送禁止のドキュメンタリーのレポートという形式
- もともとがフェイク・ドキュメンタリー
- どちらかというと意味が分かると怖い話
- おススメ度:★★★☆☆
発行されたのが10年以上前だが、あまりそんなことは感じられない、非常に読みやすい小説だった。上記に書いてある通り、いわゆるフェイク・ドキュメンタリーというジャンルで、実際に起こった風な出来事が書かれているが、全てフィクションである。先日紹介したノロイとは違い、最初から(あとがき)でフェイクと認めているので、まあネタバレではないだろう。それに実際に読んでみれば、ノンフィクションでないことはすぐわかる。
(あらすじ)お蔵入りになった取材テープという体裁で、3つのストーリーが収められている。一つはいわゆる「大家族もの」と呼ばれる、子どもの多い家庭を取材した様子を描くもの。腕のいい大工で、ケガをして休業しているという父親が限りなくあやしい。二つ目は「ストーカーの恐怖」を取材したもの。1/3くらい読んだ辺りで、落ちは見えてくるが、それでもすんなり読める話である。最後は「しじんの村」といういわゆる自給自足のアーティスト村のような寒村を舞台に、悩みを持った老若男女の再生の様子を取材するというもの。これもすんなりネタバレする微笑ましい作品だ。
というように、この小説は、3つのエピソードから構成されているが、もうちょっと突っ込んで紹介してみよう。
最初の「大家族もの」は、最初は目論み通り明るい大家族を取材できているのだが、途中から、父親の様子がおかしくなって……という筋書き。基本的に、この小説全てが同じフォーマットで、当初は予定通り取材できているのだが、途中からアクシデントが発生し、最終的にお蔵入りという結論になる。小説が終わってから、非常に親切なことに、「こういうオチですよ」という解説が、「メモ」という形で追加されているのは新しい(?)。読めばすぐに分かるような内容ではあるが、モヤモヤしないように仕込んだネタをバラしてしまうというのは、一種の手品の種明かしのようで、いいのか悪いのかは微妙だが、これくらい「分かりやすさ」に特化されるといっそ清々しくもある。
個人的な嗜好の問題だが、私がミステリよりもホラーやサスペンスを好むのは、無駄に読者を引っかけようとするパズルのようなノリが大嫌いだからである。悪口になるが、昔読んだ「コズミック/清涼院流石」という小説のオチは酷すぎて、本をぶん投げそうになった。この小説がもとで、密室ものというジャンルを偏見の目を以って見るようになってしまった。悪口を書いておいてリンクを貼るのは流石にどうかと思うので、興味があればググってみて下さい。
さらに脱線するが、大家族ものというのは、昔からテレビの定番ネタだが、個人的には結構、怖い光景を想像してしまう。多数の子どもを養うための原資はどこから来ているのか、絶え間なく妊娠する母親に産褥の恐怖はないのか、狭い家屋でいったいどのように行為に至ろうと思うのか? 特に私自身の経験からも「生活苦」という文字がチラついて、ある時からは正視に堪えなくなってしまった。昭和中盤までは、大家族はけっこう普通だったのかも知れないが……。そういえば、先日も放送していた(見なかったけど)。
二つ目のストーカー物は、様式美のような落ちがつくので、非常に読みやすい。もはや、読者を騙す気は元からないのではないかと思うほど、大サービスでヒントがばら撒かれる。先が読めない話が好きな人には勧められないが、何となく潔くもある。
三つ目はタイトルからしてもうネタバレ気味なので何も語れないが、これは少々、荒っぽい気がする。山奥の村にたどり着くスタート付近は雰囲気があって結構好きだが、この話を「うさん臭い」と言わずして何を言おう、という内容である。
全体的に、ドキュメンタリーのパロディというような内容だが、鋭い社会批判のようなものは全くなく、楽しい読み物として書かれている。ミステリ的要素がほぼ機能していないので評価は低めにしたが、こういう切り口は嫌いではない。寧ろ微笑ましくて好きだ。それぞれの落ちがちょっとやりすぎ感はあるものの、大真面目に「取材」が始まる様子は、分かっていてもワクワクしてしまう。幽霊だの、土地の祟りだの、結局犯人は「幽霊」という作品に食傷気味なら、そこそこ楽しめると思う。
(きうら)