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★★★☆☆ 読書メモ

パルプ(チャールズ・ブコウスキー、柴田元幸[訳]/ちくま文庫)~読書メモ(35)

投稿日:2019年4月22日 更新日:

  • 読書メモ(035)
  • いい加減な探偵が奇妙な依頼を受けまくる
  • 猥雑だがどこか爽快で、読みやすい、しかし気も滅入る
  • おススメ度:★★★☆☆

【あらすじとか感想とか】

ブコウスキーは、今年が生誕100年かと思ったら、来年がそうだった。今年は没後25年。まあそれはいいとして、本書のこと。主人公は、私立探偵のニック・ビレーン。こいつはLA一番の探偵だと言いつつも、かなり適当な仕事ぶりで、というか生き方で、競馬を愛し、葉巻を吸い、腹は膨れるほど太っていて、女とはしばらく縁がない(といいつつ、本作ではいろんな女に縁がある)。これだけでもう、アンチ探偵ものっぽい。そのビレーンのもとに、ある日、「死の貴婦人」なる、スンゲーいい女から、「セリーヌ」を探してくれと依頼される。あの「フランス最大の作家」であるセリーヌである。この「死の貴婦人」とは名前の通り、死を運ぶ存在である。

依頼を受けてどうなるか、と思ったら、すぐにセリーヌらしき人物が見つかる。その後、セリーヌを追いながらも、別口の依頼で「赤い雀」をみつけてくれと言われる。赤い雀ってなんやねん、となるところだが、ビレーンはけっこう変にマジメなところもあるので、セリーヌの件と並行して探しだそうとする。まあ、依頼料が安いから多くの依頼を受けなければいけないからか。赤い雀が何かはまあ、適当に青い鳥みたいなものとでも思っておけばいいかもしれないし、その意味するものは何でもいい。ふつうの雀を赤く染めて、それでいいじゃないかとも読んでいて思ったりしたが、そんなことはしない。この赤い雀は最後に分かる。

そうするうちに、今度は、妻の浮気調査をしてくれと依頼される。またもや調査以来である。何件ブッキングするねん、というかんじである。で、この浮気しているかもしれない妻というのが、これまたイイ女である。たぶん、本書の中で一番の女じゃないかという書きぶりである。この件は、なんとなく探偵ものらしいのだが、ダメ探偵であるビレーンの調査はすんなりいかない。ある夜、その妻と男とがベッドにいるところへ踏み込んだが、その男とは依頼人の夫その人で、お前何入ってきとんねんと、依頼人から銃をぶっぱなされながらビレーンは車に飛び乗り逃げる。

これでもまだ何も解決していない。そこへまた依頼人が。宇宙人に付きまとわれていると妄想づく男から、その宇宙人をなんとかしてくれという依頼が来る。もちろん何とかしようとする。その宇宙人なる人物もなかなかの女である。ほんで、この宇宙人はモノホンの宇宙人で、地球調査の先遣隊だったのである。ここら辺は、SFをちゃかしたようなかんじ。というか、この宇宙人の本性とは、一皮むけば人間もえげつない存在だという、そんな人間の本性をもあらわしているよう。こう読むと、気が滅入る。

さて、話を端折ると、この宇宙人依頼と、セリーヌの件と、浮気調査は、なんだかんだゴタゴタしたうちに解決してしまう。しかし、ほとんどビレーンは何もしていない。他人任せの感もある。しかしまあ、そんなことは気にしてもしょうがない。

ところで、ビレーンは銃を取り出して、いろんな奴らを脅しては、クソ、ケツ、ファックと言ったりしては、向かってくる相手の金玉を攻撃したりするのだが、いつもそううまくいくとは限らずに、反撃されて、というか、だいたいの野郎どもは強くて素早くて、ビレーンは持っていた銃で逆に脅されてしまったりもする。というか、ほとんどの場面で危機に陥る。たすけがくることもあれば、そうならないこともある。最後は、赤い雀調査の件で、ヘマをうつ。ここらへんは、アンチハードボイルドものといえるかもしれない。

とまあ、あらすじを書いても、おもしろさは伝わらない。本作品のおもしろさは、とくに会話である。「人間なんて(中略)苦労するために生まれ、死ぬために生まれる」などというビレーンのペシミズムには、時々気が滅入ることもあるけれど、酒場でのマスターとかとのやりとりは、けっこうおもしろいし、様々な登場人物とのかけあいは、単純に笑える。このおもしろさは、掛け合い漫才のようであるかもしれないけど、そこには何の作為もないことと、個人的には悲哀みたいなものもかんじられて、かなり好きである。というか、会話はかなり笑える。そのあたりは、実際に読まなければわからない。

【まとめ】

とくにまとめることはないけれど、読みやすいし、おもしろい。暴力も、人生の横暴めいた展開も、何もかもを含む出来事が、目の前を流れる川に浮かぶゴミクズのように、ひとしなみに生滅していくさまが、単純に良い。何度も、会話文で笑った。人物たちの刹那的なやりとりが、ときに深刻さを消した深刻さをまとわせて、なぜだか胸を打つことがあった。笑えるけども。

(成城比丘太郎)


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