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★★★☆☆

東京伝説―うごめく街の怖い話 (平山 夢明/竹書房文庫)※ネタバレあり

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  • 幽霊系を排除した実話(的)オンリーの短編怪談集
  • まあ、面白くは読める
  • 事実っぽいものがあったり、創作っぽいものがあったり
  • おすすめ度:★★★☆☆

同じ怪談集のシリーズを2週連続読むのは初めてかも知れない。理由はいくつかある。

まず、前作がそれ相応に面白い内容だったこと。
また、短編集なので、短時間で読み進められること。
そして実話ベースなので「実はタタリの仕業でした」という「夢落ち」がないこと。

メインはこの3つくらいだろうか。

ネタバレになるが、最初の1話なので紹介してみたい。文庫本の6ページ程度、タイトルは「素振り」である。

概要はある女性が、新しく引っ越してひと月ぐらいのときに酷い風邪をひいてしまう。そして、そのまま寝込んでしまって会社も休んでしまう。体も動かないぐらいだ(ここが伏線)。

ここまでは、なんともないのだが、寝ているとブンブンという奇妙な音が聞こえるのである。なんと、ある男性が無断で彼女の部屋に侵入し、あろうことか、バットで素振りをしているのである。当然、女性は動けないので「この後どうなるか」を読者に期待させる展開になる。

ここで何らかの因果関係(過去にこの部屋で自殺した野球選手だった)とかなら、心霊系の怪談になるのだが、男の正体は「頭のおかしい大家さんの息子」で「合いかぎを使って時々、奇行を繰り返す」ことを隣の部屋の住人に教えてもらうことになる。その結果、家賃5000円引きのオファーを振り切って女性は引っ越してしまう。

それだけである。

その息子が「今日はここまで」というセリフが気味悪いというのはあるが、特段、暴力的でもなければ、だれも不幸になってもいない。

この辺が実話系怪談のいいところで、変に起承転結がキッチリしていないので、ある意味、その不条理感に酔えるといえるだろう。

逆に最終話である「フラスコ」は、かなり猟奇的な要素を持った怪談である。これも幽霊などは出ていない。物の勢いで、こちらも紹介してしまおう。

中学3年生の女子生徒が同級生との子供を身ごもってしまう。もちろん、堕胎されるわけだが、その結果、その女子生徒は精神的に不調をきたし、引きこもりになってしまう。そこまではよくある話である。

だが、ある時を境に、その女性から大変な異臭が漂うことになる。この異臭の正体がこのお話の肝である。

女性は堕胎した子供の代わりに子犬を自分の子宮に入れ、それが再生して生まれてくること、そして、別れた彼氏と結婚することを妄想していたのである。

風呂場に蛆が沸いていたとか、腐敗汁が流れていたとか、いろいろグロい描写があるので、内容はお察し頂きたい。

これも実話として書かれているが、実は創作っぽい。引きこもりの女性がどうして、子犬を連れてこられたのか。それは同居する家族に気づかれなかったのか。現象だけ見ると、ありそうな気もするが、よく考えると「子犬を自分の腹に入れる」というのは少々やりすぎ感があるのではないか。そういう意味では、こちらは実話というより、実話をもとにした創作と考えられる。

タイトルは「東京伝説」であるので、伝説--事実として人々が言い伝える話、と定義するなら、少々厳しい感じもするが、まあ、それはそれ、実話オンリーだと地味だったりシュールすぎたりするので、こういう話も混ざってくるのはいいだろう。

全体的に読みやすく、読書時間も短いので、夏の夜の怪談タイムにはぴったりではないだろうか。

私の職場には様々な人がいるが、趣味を聞いて「サイコ系怪談を読むこと」と答えた人は珍しい。そんなこんなで、2週続けて読んでみた次第である。

珍しいとは書いたが、まさに私はそれで、怪談集もこれだけ読むと、何らかのヤナギダクニオ系論文が書けそうな気がしてきた。柳田翁のような知見はないので、無理だとは思うが。

結論として、軽い読書にぴったりの一冊。シリーズはまだまだあるので、また、機会があったら紹介したい。

(きうら)


-★★★☆☆

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