- 読書メモ(68)
- 疫病についての短編小説
- 先週の競馬
- オススメ度:★★★☆☆
【先週の記事への訂正】
まずは、先週(2021/4/15)の記事についての訂正からです。そこで取り上げた画家の正確な名前は、「まちゅまゆ」でした。訂正しておきます。
【この前読んだ本】
・『疫病短編小説集』(石塚久郎〔監訳〕、平凡社ライブラリー)
【収録作品】
・ポー「赤い死の仮面」(上田麻由子・訳)
・ホーソーン「レディ・エレノアのマント」(馬上紗矢香・訳)
・ブラム・ストーカー「見えざる巨人」(馬上紗矢香・訳)
・キプリング「モロウビー・ジュークスの奇妙な騎馬旅行」(大久保譲・訳)
・キプリング「一介の少尉」(大久保譲・訳)
・キャサリン・アン・ポーター「蒼ざめた馬 蒼ざめた騎手」(石塚久郎・訳)
・JGバラード「集中ケアユニット」(石塚久郎・訳)
【簡単な感想】
英米の疫病に関する短編小説をあつめた本です。
この中で一番有名なのは、ポーの作品でしょう。「赤い死の仮面」はポーの作品の中でかなりスタイリッシュだと思います。疫病というものが人間心理にどのような影響を与えるのかを、これほど洗練された形で描いたものはないといえるほどです。
この短編小説集で描かれる具体的な疫病は、天然痘とコレラとインフルエンザです。天然痘が人間に及ぼす影響を劇的に描いたのが、「レディ・エレノアのマント」です。疫病が短編小説の直接プロットとして機能している作品です。わりかし分かりやすく、それなりにおそろしい作品です。
「見えざる巨人」と「モロウビー・ジュークスの奇妙な騎馬旅行」は、コレラをモチーフにした寓話として受けとることができます。それだけではなく、当時の社会体制や、植民地支配下のインドを描いたものとして批判的に読むこともできるようです。個人的には、こういう雰囲気の作品は好きです。とくに、「モロウビー・ジュークス~」は『砂の女』を思わせるところのある奇妙な作風でした。
「蒼ざめた馬 蒼ざめた騎手」は、スペインインフルエンザの流行した時代の作品です。第一次世界大戦下を描いたものなので、インフルエンザのパンデミックがそれほど可視化されるわけではありません。なにも知らずに一読すると、インフルエンザ文学とは意識されないかもしれません。とはいえ、疫病文学として読むと、明らかにインフルエンザは、大戦時を描いたもののアクセントになっているようです。登場人物が幻視する「パンデミックの見えない姿」(解説)を寓意的に描いている部分はとても印象的なのですから。
解説によると、スペインインフルエンザの前に、ロシアインフルエンザによるパンデミックがあったそうです。しかし、そのことは歴史上ではほぼ忘却されたそうです。インフルエンザは、コレラとは違い致死率が低いので、あまり記憶にのこらないからかもしれないからなのでしょう。解説にもある通り、インフルエンザパンデミックがもたらすものが、現在の新型コロナウイルスパンデミック(とインフォでミック)とどこか似ているとしたら、現在のパンデミックにたいして人々がそれほど危機感を抱いていないように見えるのもむべなるかな、といえるかもしれません。
過去のインフルエンザパンデミックでも、重篤な状態に陥ることがあったようなのですけど、なぜそのことが表面的に伝達されてこなかったのか。インフルエンザパンデミックのことが文学に記されていないわけではありませんが、しかし、100年後の今日にはそのことが常に意識されるわけではありませんでした。個人的には、パンデミックの忘却にみえる現象は、大地震などの災害被害の忘却に似ているような気がする。文学に限らず、何らかの災厄を表象することの難しさを痛感しました。現在の日本文壇においてこのことをどう捉えようとしているのかは、わかりません。未来で待っているであろう未来人に、このパンデミックがどう伝わっているか問いかけてみたいものです。未来のみなさーん、どうなってますか? 返事がない・・・(以下略)
さて、その未来においては、現在の新型コロナウイルスよりも、もっとおそろしい感染症蔓延の可能性もあるので、現在のトレンドになっているニューノーマルなんてのは、古びてるのかもしれません。この前の冬もニュースにもなっていた、鳥インフルエンザ発生もおそろしいですし、新しいタイプの新型コロナウイルスも発生してるかもしれませんし。
なんというか、現在の日本(東京)は、オリンピックをどうするかに汲々としているようです。個人的に、オリンピックは開催してもしなくてもどーでもいいんですけど、もし日本開催でなく、スペイン(マドリード)が開催地になっていたら、今頃どーしていたのかなと、思う今日この頃。
【余談】
歴史小説とかで疫病が全面に出てくる作品はそれほどないかと思われます。これから歴史小説(文学)において、疫病をどう表象していくかをそれなりに注視しときましょう。
それから、異世界ものラノベにおいて、疫病をどう扱うのか。異世界ラノベに疫病や病人は出てきますけど、パンデミックそのものが主題として取り上げられることはないでしょう。例えば、『このすば』なんかには、おぼえている限りでは、病気すら描かれる気配はなさそうです。その他近未来SFだと、某宇宙世紀もので、スペースコロニーに疫病が発生したなんてことは描かれないでしょう。スペースノイドは、病を克服したのか? 『SEED』あたりでは克服されてそうですけど。パンデミックを文学やフィクションにすることの難しさを感じてしまいます。まあ、考えすぎでしょうが。
【あとがき~競馬メモ】
インフルエンザというと、馬インフルエンザによって競馬開催が中止になったことが過去にありました。ほんの十数年前のこととはいえ、競馬ファンでもすでに忘却しているかもしれません。まあ、たいしたことなかったからですけど。
てなわけで、先週の競馬の結果についてです。まず土曜日の、中山グランドジャンプについて簡単に。オジュウチョウサンは、最後のコーナー手前で舌をだして走っていたので、力が衰えたのでしょうか。本来ならお疲れさまで引退して、種牡馬入りなんですけどできるでしょうか。ゴーカイはできてたけど。これからの障害レースでは、メイショウの天下になるか、ライバルが出てくるか。
日曜日には皐月賞などがありました。4月も終わりそうだけど皐月賞。ちなみに、メイステークスはだいたい5月に行われます。サツキとメイ。サツキの方が姉だから先に開催したわけではないでしょう。これから5月に向けてよい競馬日和が続きます。そんな晴れた日曜日にはメインと最終レースの馬券を早々に買って、酒を呑みながらメインレースを観るのが理想的ですな。今の時期だとホタルイカをあてにするのが最高です。
その日曜日は、強い馬が強いレースをした印象です。まず皐月賞のエフフォーリアは、中山のコーナリングもスムーズで、直線に入って余力十分に突き放しました。タフなレースでしたので、ダービーまでに疲れがとれるかどうか。そこをクリアできたら2冠は問題なさそうです。前にすっとつけられるし、折り合えるし、力を十分に発揮できる安定した走り。ほんま、敵は己自身のみといったかんじ。まあ、ジョッキーは落ち着いて乗ってるし大胆でもあるので大丈夫でしょう。気は早いけど、ルドルフ以来の関東馬の三冠馬を夢見てワクワクドッキドキ。というか、もしかしたらとんでもないバケモノの予感。ナリタブライアン以来の衝撃なもんで。
一番人気(実質二番人気)のダノンは、タイトルホルダーがレース後半からペースアップさせてしばらくしてから追走に手一杯になったので、スタミナ不足なのか。しかし、道中引っ掛かっていたレッドベルオーブですら8着に粘っていたので、ダノンは単に弱いのかあるいは気持ちがきれて走りたくなくなったのか。もし後者なら次走がどこであろうと買えないなぁ。もともと買うつもりはないけど。それにしても、クラシック一番人気馬の大敗って、最近なかったような。
結局、先行馬で上位に来たのは2頭のみ。それだけにエフフォーリアはやはり強い。2着のタイトルホルダーは、菊花賞や来年の春天が楽しみなほどのステイヤーかなぁ。個人的には、今回買わなかったグラティアスをダービーで穴的に狙いたいです。四コーナーでちょっと不利があったので、東京でスムーズなレースを見たい。ってか、ダービー出れますよね。
日曜日には、皐月賞の他にも強い馬が強い競馬をしました。ダンシングプリンスは順当な強い勝ちかた。テイオーケインズも強かった。これからダート界を引っ張っていけるかどうか。それにしても、ヒストリーメイカーはなかなか勝てないなぁ。福島民報杯のマイネルウィルトスは不良馬場だったとはいえ強かった。とはいえ、出走馬の多くは福島コースのつもりで調整してきただろうし。急きょ新潟開催になったので、芝がまだ生えきってなかったというのもあるだろうし。
来週はG1はお休みですが、おもろいレースがいくつかあります。それにしても、観客の拍手の応援は、良いなぁ。やはり応援あってこその娯楽ですね、競馬は。
(成城比丘太郎)