- 「読書メモ(69)」
- 心理的な恐怖。
- 何かの存在と感応する人たち。
- オススメ度:★★★★☆
【本書について】
オリヴァー・オニオンズは、1873年生まれのイギリスの作家です。色んなジャンルの作品を書いたようです。とくに、ロンドンの国立美術学校で学んだだけあって(?)、時に色彩豊かな描写と、映像的な描写が印象的でした。
内容としては、幽霊話(ゴーストストーリー)が中心ですが、しかし、目に見えるだけの幽霊(霊界の力)だけではなさそうです。「霊界の湿潤現象」(p.8)によって、見えない何かに取りつかれた人たちや、何かの力に感応する人たちの話なのです。
何も見えなくても触れられなくても、何者かの想いみたいなものは伝わってくるということです。読んでいる私もまた、見えない誰かが近くにいて、その何者かのメッセージを感じ取ることができる気になりました。本書に書かれたことは、自らのこととしてきちんと伝わりましたっ!
ところで、著者名の「オニオンズ」から、私はタマネギを連想したのですが、「解説」によると、当時の本人もタマネギのことでからかわれたらしい。
【収録作品について】
・「手招く美女」
・「幻の船」
・「ルーウム」
・「ベンリアン」
・「不慮の出来事」
・「途で出逢う女」
・「彩られた顔」
・「屋根裏のロープ」
「手招く美女」は、古い屋敷に住まうことになった作家の男性が何者かに憑依され、やがて精神崩壊してゆくさまを描いてます。その彼を気遣う女性と彼との対比がなぜか切ない。まあ、美女に手招かれたら致し方ないよね。行っちゃうよねー。
「幻の船」は、幽霊船が登場しますが、それは過去と未来との結節点として存在するものでした。隔たる時間を結びつける船、という意味だと、どちらの時間のものが幽霊船なのか。
「途で出逢う女」は、まさに幽霊目撃の話です。しかし、その幽霊譚は過去の記録なのです。実在する幽霊目撃記録に注釈を加えることで、これまた過去と現在との差が楽しめます。
「ルーウム」は、見えない何かに追いかけられるルーウムの話。これはなかなか見につまされるものがありました。
「ベンリアン」は、芸術家が自分の魂を像に転移させるまでの話です。その過程の描きかたがおもしろいです。
そして、一番印象的だったのが、「彩られた顔」です。これはとても色彩豊かなものを文章から感じます。ふつうに読んだら怪奇幻想小説とは思わないかも。ヴァージニア・ウルフあたりの小説を読んでるような感覚でした。
【まとめ】
幽霊話といっても、なんかおどろおどろしいものではありませぬ。むしろ、何者かの見えない力を感じ取った登場人物たちが、時に恐怖したり、あるいは憑依されたり、さらにはその何者かと感応したりしようとするのです。こういった人間の心理的な面を描いたホラー(テラー)は、個人的に大好きなので、面白く読めましたー。
(成城比丘太郎)