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★★★★☆

ガダラの豚(中島らも/集英社)

投稿日:2017年1月17日 更新日:

  • 学者VS.呪術師の対決を壮大なスケールで描
  • 気軽に読める何でもありの傑作娯楽小説
  • グロテスクで下品な描写も多い
  • おススメ度:★★★★☆

学者の一家が日本・アフリカを舞台に悪役の呪術師と戦う。これは、どちらかというとSFに近い内容で、日本推理作家協会賞を受賞しているので紛らわしいが、ホラーやミステリというより超常小説だ。これで主人公たちが少年少女なら完全にジュブナイル小説だが、そこが中島らも。主人公はアル中の中年教授、泥臭い人間描写でかなり読ませる。

新興宗教やアフリカ、呪術やテレビ、アルコール・ドラッグから格闘技まで、恐らく作者が面白いと思った要素が全て叩き込まれている。たくさんのおもちゃを集めて作った遊園地のようでもある。「何かを面白がること」にかけて、人一倍才能のあった中島らもである。面白くないはずはない。ただ、このテーマパークは人間の闇も多く含んでいる。コミカルでありながらどこか居心地の悪い違和感がつきまとう。描写もグロテスクだ。

率直言ってやはりちょっと下品でもあり、読後に芯に来る感動というものもない。読んでいる間はずっと「面白がれる」小説であることは間違いないが、小説的にはちょっと構成が歪だったり、キャラクターが変人過ぎる気もする。その辺も含めて「中島らもが好きかどうか」によって評価が分かれる。

ご存知の通り著者は泥酔の上、階段から転落したことが原因で亡くなられている。本書にもドラッグ等を肯定的に捉える描写があったり、そもそも主人公がアルコール中毒だったりする。一方で、プロレスなど著者が好きだった娯楽も設定として生きていて、何だか少し哀しい感じもする。恐らく著者は、生きることに常に苦しんでいたのではないだろうか。

とにかく、色々闇の深い部分は感じるが、かたい事は言わずに気軽に楽しめる、そんな小説である。

(きうら)


ガダラの豚(全3巻セット) [ 中島らも ]


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