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【2021秋の再掲載シリーズ01】黒い家(貴志裕介/角川ホラー文庫)

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  • 「やっぱり生きた人間が一番怖い」をたっぷり楽しめる
  • リアルな設定と抑えた文章
  • スリリングな展開で抜群の没入感
  • おススメ度:★★★★☆

保険会社に支払査定主任として勤める主人公とその顧客である不気味な登場人物との関りが、現実感たっぷりに描かれる貴志裕介氏の傑作ホラー。作品世界への吸引力も強烈で、読み進むにつれまるでグイグイ引き込まれていく。「ホラー小説」って面白い、と素直に言える一冊である。

著者の体験に基づく保険会社の裏側も非常に興味深く、普段知ることのない世界が体験できる。いかにも「ありそう」なクレームや狂ったお客に、自分は「保険会社に勤めなくてよかった」と、つくづく思う。作中に登場する「取り立て屋」もその背景に広がる黒い社会を想像させて楽しい。そして、その危ない世界を安全な場所から体験できるという、ある種の優越感。

ところが、作品を読み終わると自分もまたこの「黒い家」のある世界に住んでいるということを実感させられる。身近なところにもこの手の憎悪や醜い欲望はあるのではないか、いや、本当は自分の中にもあるのではないか、と感じさせられるのが本当に怖い。

ただ、作品が発表されたのが1997年であり、どうしても作中の社会の描写が古く感じるだろう。とくに若い読者の方にはピンとこない描写も多いのではないかと思う。ただ、それを差し引いても面白いお話であることは変わらない。怖い話は読みたいけど、幽霊や超自然的な存在が苦手な方にも最適な作品。

(きうら/2016/12/11)

2016年の私はえらくあっさりと紹介しているが、初期はこんな感じの紹介文が多かった。この作品は京極夏彦の「姑獲鳥の夏」と並んで日本のホラー小説にハマるきっかけになった一冊だった。著者はこの本の前に「12番目の人格イソラ」この後に「クリムゾンの迷宮」や「天使の囀り」などの傑作を発表。その後は「悪の教典」や「新世界より」で若年層にも知られることになる。

近著は2冊発売されているが、寡作な作家だ。探偵シリーズ以外は、作品ごとにモチーフやテーマを変えていくということに取り組んでおり、一時期迷走していた時期もある。

ただ出世作である本書のもつダークなエネルギーは成長期にある作家特有のもので、設定の古さは感じるものの、巧みな構成で物語の中へ読者を突き落とす。最後にある人物が怪人化してしまうのは、今思うと残念だが、本書のテーマは「普通の人間が行う闇の営み」で、誰しもが陥る人生の窮地が描かれていて興味深い。総理大臣やスポーツ選手だけが何か必死に人生と抗っているように見えるが、大人になった人間は誰しももがきながら生きていることに変わりはないのである。その「平凡な、生活」に亀裂入れる本書のような出来事は今もって身近な脅威かも知れない。

時代設定が古いのは、一周して「時代物」として読めるのではないか。1997年と言えば24年前、バリバリの平成一桁である。携帯電話(ガラケー)の普及も進んでいないこんな時代もあったのだと、今では思う。

リアリティのある小さなどんでん返しを繰り返しながら、奈落に落ちてくような感覚は貴重なので、未読の方は是非一度読んでいただきたい。そんな傑作である。

※年内いっぱいは元のパターンで本を読むのは難しそうな趨勢だ。そこで、こんな形でだが本ブログの「3行で探せる怖い本」を紹介していきたい。

(→きうら/2021/9/12)

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