3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★☆☆☆

メルキオールの惨劇 (平山夢明/ハルキ・ホラー文庫)  ~あらましと感想、軽いネタバレ

投稿日:2017年5月27日 更新日:

  • エキセントリックな文章と物語
  • ケレン味たっぷり
  • 普通の悪趣味幻想小説
  • おススメ度:★★✩✩✩

書評サイトとしては反則なのかもしれないが、Amazonのレビューが高かったので、内容を一切確認せずに購入して読んでみた。結果を言うと失敗であった。この小説は、道具立ては立派だが、外連味たっぷりの文章と気取った内容、中途半端なスプラッター要素と、最後までホラーが燻ったまま終わる。もっと素直に書けばいいのに。これは失敗したハードボイルド・ホラー小説だ。重ねて断ってから述べる。書評サイトが言うことではないが、他人の評価を信じて読んではいけない。せめて、自分で数行読んでから判断すべきであった。

(あらまし)他人の不幸を集めることが趣味の金持ちの変質者の依頼を受け、轢き殺された被害者が乗っていた自転車や目玉を刺して殺された新郎のメガネやかつらといった遺物を集める謎の主人公「12(トゥエルブ)」。彼は、自分の子供を殺し、首を隠したという女の家に乗り込み、その遺品を蒐集しようと目論むが、その家には朔太郎と礫(さざれ)という奇妙な兄弟がいた。果たして、首尾よく「遺品」は入手できるのか。

と、まあ、設定はいかにもホラーで面白いのだが、とにかく文章がいけない。ご存知かも知れないが、一応、外連味とタイトルの意味を解説しておく。

外連味(けれんみ) …… 元は歌舞伎用語で、大げさなさまやはったりを指す。
メルキオール …… 東方の三博士の一人。新約聖書の登場人物で、イエスの誕生時に来て拝んだ人物とされる(詳しくはWikipedia

とりあえず、一文を引用する。

暇つぶしなら反対側にも錆びた缶詰のような自主コンビニがあったが、今はどこかに座りたかった。

錆びた缶詰……もし、この文を購入前に読んでいたら、たぶん定価では買わなかった。こういう風に普通の情景を描くのに過度な修飾を用いると、本当に決めたい文章が映えないのだ。この一文は、一番穏当な表現だが、終始この調子で「オリジナルティのある文章」は加速していく。好みの問題もあるので、私が嫌いだという可能性も大いにあるが、私はホラー小説が読みたいのであって、ホラーっぽい文章を読みたいのではない。

これだけでは何のことだがわからないだろうが、物語の設定自体が突飛なのに文章まで突飛なせいで、単にヘンテコリンな物語になってしまった。スプラッター描写も頻繁に出てくるのだが、これもこの文章のせいでちっともリアリティがない。読者に痛がらせないといけないのだが、文章が痛がっている。

それでも、終盤の展開は中々興味深いものがあるのだが、そういう展開に持っていくなら、どこかにまともな人間を一人置いておくべきだった。主人公かヒロインか、警官か。つまり客体化されていないので、ホラー小説というよりは幻想小説に近い。なんだかドグラ・マグラ(Ama) を読んだ時と同じような気分であった。

結論から言うと、冒頭の私の二の轍を踏まないように、何行か読んでから購入することをお勧めする。文章がはまるなら物語もはまるだろう。

私は無理だった。

(きうら)


(楽天)

-★★☆☆☆
-, ,

執筆者:

関連記事

「エンドレスエイト」(『涼宮ハルヒの暴走』)(谷川流[原作]・京都アニメーション[制作]/角川スニーカー文庫) ~アニメ版のホラー的鑑賞について

アニメ版を一気に観るとホラーになります。 私の当時の感想を主に書いています。 こんなくだらない事は、あまりお勧めしません。 おススメ度:★★☆☆☆ 最初に書いておきたいのですが、今から紹介するのは、ア …

いきはよいよいかえりはこわい (鎌田敏夫/ハルキ・ホラー文庫)~あらすじとそれに関する軽いネタバレ、感想

セックス描写の多い、オカルト的サスペンス 謎の理由が不可解 内容と真逆の純愛もの おススメ度:★★☆☆☆ お話の導入はありがちだが面白い。広告代理店に勤めている由紀恵という主人公は、都心に格安マンショ …

黙秘犯 (翔田寛/角川文庫) ~核心的ネタバレあり

至極真っ当な事件小説 一つの殺人の裏側を探る 2時間ドラマのようだ おススメ度:★★☆☆☆ (本文の推敲を何度しても面白い文章にならなかった。力不足を実感する) どうも本作はシリーズもので第2作目のよ …

エス(鈴木光司/角川ホラー文庫) 【ネタバレ全開】

「貞子」にまつわるアナザーストーリー 粗が多すぎて最後は本を投げたくなる 怖くはありません。 オススメ度:★★☆☆☆ 作者が鈴木光司で、本の裏に次のようなあおりがある以上、リングの関連書であるのは分か …

ブラジルから来た少年(アイラ・レヴィン/ハヤカワ文庫)

古典的SFサスペンスとして楽しむ一冊 いわゆるナチスもの 少しだけグロテスク描写もあり おススメ度:★★☆☆☆ 発表された1976年当時では、この小説のメインテーマは一般的に余り知られていない科学技術 …

アーカイブ