- 医学的知識を活用したSFホラー
- 途中までは面白いが、オチに大不満
- ネタバレありで、以下で詳しくその理由を説明します
- おススメ度:★★☆☆☆
昨日、鈴木光司氏の「リング」を紹介したので、年度が近く1995年に発表され、その医学的知識で話題になった(第2回ホラー小説大賞・受賞作)を紹介したい。今回も古い作品なので、ネタバレ方式で書くので、未読の方はご注意ください。
全体のあらすじは、主人公・薬学部・生化学者の永島利明の妻が脳死状態になり、腎臓バンクに臓器を提供。永島は、妻に執着があり、移植手術の時、妻の肝細胞を入手して培養する。一方、移植を受けた安斉という女性は、悪夢にうなされるようになる。培養されていた細胞は「Eve1」と命名され、驚くほど速く増殖し、最後は自分で外に出て、偶然出会った朝倉という女性に乗り移る。意志を持った「Eve1」は、腎臓移植をした安西を探し出し、子供を産ませようとする。主人公は止めようとするが「イヴ」は生まれ人を攻撃する。主人公は「イヴ」と融合し、その暴走を止める。犯人はミトコンドリアで、人間を攻撃するというSFホラー。
と、書いてみたが、正直途中から意味が分からないと思う。実際には作者の医学的知識を生かして、一応、説得力を持たせた理由が書き連ねてあるが、それでもオチには納得できない。
<ミトコンドリアは真核生物の細胞小器官である。二重の生体膜からなり、独自のDNAを持ち、分裂、増殖する(Wikipediaより抜粋)>
さらに受け売りで申し訳ないが、Wikipediaによれば「自己の遺伝子のために生物に寄生していると考えられる」と、書かれているので、それをベースに話が構成されたと思うのだが、ひとこと突っ込みたい。
「ミトコンドアが火を噴くか!」
途中まで、結構ハラハラして読んでいたのに、最後は何だか分からないSF怪人になって、火を噴くというのはいかがなものか。そもそもDNAは分かるが、ミトコンドリアがどこで思考し、感情を持っているのか。なまじ医学知識が活用されているので、そのギャップは激しく、とにかく納得できない。ゴジラじゃあるまいし、そもそも火に弱い細胞が火を使ってどうする(その理由はちゃんと書かれているが)。
当時としては斬新なテーマで、正確な知識だったというのも分かる。文章力もある。だから期待して読んだのだが、あれから20年経った今も納得できないのである。上記のオチを知ってから読むと、逆に面白いかも知れないが、色んな意味で衝撃的な一冊であったのは間違いない。
(きうら)
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