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最近読んだ本【2019年1月】~読書メモ(27)

投稿日:2019年2月11日 更新日:

  • 読書メモ(027)
  • 1月に読んだ本
  • オカルティズムから、新書にSFまで
  • おススメ度:それぞれ

【はじめに】

今年から、1ヵ月ごとに1回、まとめ記事を載せます。1ヶ月に読んだ本の中から感想を書けるものだけ取り上げて、備忘録として記すということです。まあ、はっきり言うと、長文として書くのがメンドイので、こういう形をとるということです。

【読んだ本】

・大野英士『オカルティズム-非理性のヨーロッパ』(講談社選書メチエ)
[18世紀末から19世紀にかけての約百年間の、ヨーロッパ(主にフランス)におけるオカルティズムの変容を追った本。著者はフランス文学専門のようなので、そのほとんどがフランスの動向を概観的に扱ったもの。
オカルティズムの源流は、たとえばグノーシス主義などといった19世紀以前の思想にまでたどることができますが、著者が言うには、魔女狩りの終焉とともに古い魔術的信仰は効力を失くしたといいます。それはひとつには、「フランス大革命」による「認識論的切断」からくる「神の死」があったようですが、しかし、近代を迎えてもオカルティズムの潮流は形を変えて続いたようです。というか、現代にまでその傾向は残っています(たとえば、欧米にはオカルト現象を科学的に捉えようという学科が大学などに存在します)。
オカルティズムが、「古代から連綿と続く」「人智を超越した超自然的な力、しかも正統キリスト教の枠組みに収まりきらない異教的・異端的な『力』にすがって有限」な人間を超えていこうとする願望をあらわすとするなら、それは現代にも及んでいます。しかし、欧米はともかく、この日本ではオカルトと聞いただけで胡散臭いと敬遠する向きが多いでしょうが、そういった欧米由来の正統オカルティズム(?)を知ることも、ある意味(欧米を理解するには)必要なことかもしれないと、本書を読むと分かります。
19世紀のヨーロッパは、オカルティズムが吹き荒れた世紀といえるでしょう。とくに、「実証科学」という新たな知の枠組み(エピステーメー)によって、従来のオカルティズムもまた「実証科学」的に捉えることができるのではないかという思想が生まれたようです。その一例としてメスマーの「動物磁気」が挙げられています。その他にも、いかにその100年間にわたって「オカルティズム」という新たな知に夢中になっていたのかが、簡単にわかります。その流れは一方で、日本にも訪れています。この日本ではオカルティズムがどのように受け入れられ(拒否され)たのかは詳しく書かれていませんが、本書を読んで考えてみるのも面白いかもしれない。本書で、オカルティズム的なものが日本で、サブカルチャーとしてどのように消費されているかを少し書いています。
著者がひとつの結論として述べるのは、「ある意味、ホロコーストを準備したのはオカルト的十九世紀性そのもの」だということですが、これについては何とも言えない。まあでも、著者が言うように「ユイスマンスの反ユダヤ主義」や「セリーヌの対独協力」といった「フランス・ファシズムの暗部」が想い起されるというのはわからないでもない。
またこの世紀は「心霊科学」の勃興と衰退がありましたが、それにはアメリカから飛び火した「ポルターガイスト」の影響がありました。それもまた興味深いところです。とくに、この時代に書かれた怪奇小説には、まじめに「心霊科学」を取り上げたものがありますし。ベルクソンなども心霊学をまじめにとりあげたようですし。
文学者も相当この世紀のオカルティズムに影響されているのでしょう。その画期が本当に18世紀末にあるのかどうか分かりません。でも、たとえば、『フランケンシュタイン』(1818)では、フランケンシュタインがそれまでの魔術的な思想を脱して怪物を科学的(化学的)にうみだすわけなんですが、それは科学的(化学的)でありながらも、よく考えると、ひとつの生命体を創り出すという、「オカルト(=神の力を離れた自然から、隠されたものを暴きだすという意味において)」に通じるものがあるような気がしないでもない。そういった意味では、『フランケンシュタイン』をSFの鼻祖というのには留保を付けなければならないかもしれませんな。ってか、SFってオカルティズムを源流にしてるとしたら、そうではないといえるが。
また、フランス文学でいうと、バルザックもまたオカルティズムの影響を受けたのだろうか。『絶対の探究』なんかは化学者の破滅までを描いてるわけで、その「絶対」をつきつめようとする姿勢も19世紀的オカルティズムがあるのかもしれない。それとやはり、『セラフィタ』には、古くさくもありながらも、19世紀の恩恵(?)を受けているものがあるように思えます。
さて、短く書くつもりが長くなってしまいました。結論を言うと本書は、簡単に近代ヨーロッパのオカルティズムを知るにはよい本かもしれない。現在日本でも人気のあるらしい、「とあるシリーズ」では、「魔術と科学が交差する時」というようなことが語られているが、元々オカルトと科学とは相即的なものだとしたら当たり前かもしれません。たしか池田清彦がそんなこと書いていたような気がする〕

・飛浩隆『グラン・ヴァカンス』(早川書房)
[著者の新刊(『零號琴』)が面白いということのようなので、それを読もうと思ったが、この著者のものを読んだことがなかったので、とりあえずまずは『グラン・ヴァカンス』を読んでみた。内容は、「顧客に見捨てられた〔かもしれない〕仮想リゾート」でAIたちが、人格を持ったように振る舞う。そこに、何者かが襲って来るというもの。閉じられた世界という見た目(?)はありふれた設定だが、なんかAIたちの生き生きした感じを受ける。彼ら(?)の受動的なありようが「夏」の永遠さを感じさせるような気がしないでもない。夏に読みたかった。これを読んでるとき、なぜか頭の中で「鳥の詩」が流れていた。
【追記】
このあと、その新刊も読んだ。設定は面白かった。音楽(音響)をいかしたもの。というか、視覚と聴覚の融合というか、その両者は同源だったのではということを感じさせる。後半は、なんというかサブカルショーを見ているようだった。というか、出てくる人物像には色んなモデルがあるのではと思えてくる。というか、タイトルからして、アレにしか読めない。〕

・山田康弘『縄文時代の歴史』(講談社現代新書)
〔最新の考古学的見地から、縄文時代の(日本列島にいた)人たちの生活や、居住環境・食料・土器などの道具・墓制・精神文化・集団間の交流(交易)などを幅広く見ていく内容。著者は縄文時代を「草創期」から「晩期」に区切りながら、縄文人の変容を見ていく。縄文人と言っても、遺伝的には地域性や多様性があり、地域によっては発展(?)の仕方も違ってくるそう。
現代日本で、「衣・食・住」のうち一番重要なのはおそらく「住」ではないかと思われます。とくに「衣」に関してはどうにでもなる(住むところがあれば)。では縄文時代はどうだったのか。食料は「手に入ったものを何でも食べていた」というのはまあそうでしょうねぇ。ほんで、「定住化」に関しては、温暖化(と一時期の「冷涼化」をはさみながら)によって環境が変化し、そのおかげで食料が多様化したためとしています。つまり、その食料保存のために定住化したのではないかということです。「食」に関して個人的におもしろかったのは、「クリ(栗)」でしょう。「クリ」はあく抜きせずにくえますしね。それに、建材としても利用されたそう。そのための「クリ林」が住居近くに人為的なものとしてつくられていたそう。
また道具的なものとしては、土器は煮沸用として使用されたが、その発明はかなり偉大であったのではと思えます。有名な土偶について。土偶は縄文数千年間において年間数点程度しかつくられていないそう。それと、漆製品もつくられていたのではないかとも。
縄文遺跡と言うと貝塚でしょうが、その情報量はすごいものがあるそう。縄文の生活を知る上で重要な情報源になるということです。それと、埋葬方法からも色んなことがうかがえると分かります。その他には、住居跡や墓から見る地域独自の集団形成における変遷も興味深いところ。縄文時代中期から後期にかけて、地域差はありながらも、母系制から父系制へとゆるやかに変わっていったそう。著者が言うには、「東日本の縄文文化の大規模集落は、世界の先史時代の遺跡と比べて特殊」だということ。これについては何とも言えないが。
最後に。この時代の人々は、死者の霊などは恐れなかったのではないかとのこと。死後の観念がどういったものだったのかわからないが、何かしら霊のような観念はあったのだろうか。まあ、異常な死に方をしたという「異常死者」への曰く言い難い思いはあっただろうと想像できるから、何かはあったのだろう。それと、この時代の死生観としては「再生・循環」といえるものだとしたら、アイヌ文化と通じるものがあるのかもしれないが、それはなんとも言えない。
本書のタイトルには「歴史」とあるが、著者の研究分野である「考古学と人類学」からみたものなので、「歴史(ヒストリー)」ではないかもしれない。考古学的知見はともかく、人類学的なものとしては読者としては何とも言えないのが本音(だが、おもしろいもんではある)。〕

(成城比丘太郎)




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