- リアルな恐怖体験
- 目に見えないということ
- 侵食される日常
- おススメ度:特になし
私は平日の朝は、6:30きっかりに私は家を出て、最寄りのバス停に向かう。その間、約7分。もう600回近く繰り返したので正確な時間だ。
バス停にはほとんどの場合、先客がいる。男性サラリーマンが二人、女性の会社員が一人、時には自分が一番先ということもある。時々老人もやってくる。
ただ、メンバーは全員固定している。
6:38 奈良交通のバスが来るのが分かった。目で見なくても、エンジン音で分かるので大概は目を閉じて体力を温存している。
先日はバスに乗り込んでギョッとした。数人しか乗っていなかったからだ。最大数の乗車があった時は、ほぼ満員というバスだった。バスは程なく出発、95%以上の確率で車内では一言も会話はない。もちろん、マスクを着用していない乗客もいない。けっこうな割合で暖房が掛かっていない。これはマジで寒い。エコか? 何かつけてはいけない規約でもあるのだろうか。
6:48 JR奈良駅に到着。毎日発着していた名古屋への高速バスが消えている。まばらではあるが、それでも無人とは言えない程度の人はいる。何より、これから「仕事をしに行く」人々独特のムードが漂っている。
やる気があるような、うんざりしているような。
以前は奈良ということもあり、外国人観光客が駅で屯している光景を見たが、今はそんなことは全くない。改札をくぐるとたいてい「おはようございます!」「ありがとうございます!」との声。あまり報道されないが、鉄道各社の経済的ダメージも相当なものじゃないのだろうか。
6:50 ホームにはほぼ、決まった乗客が決まったドアの前に立っている。私は4号車の3番ドアの△に並ぶが、この位置は、次の大阪メトロへの乗り換え用階段に一番近いからだ。無限とも思われる通勤を繰り返すと、自然と無駄のない場所に乗車するようになる。なので、ここもメンバーが固定されている。
男性二人、女性一人、皆会社員の風体をしている。加えて割と頻繁に老人を目にするが、いつも落ち着きなくキョロキョロしている。私は死んだような目で、ぼんやりしている。どちらがいいのかは分からない。
6:57 大阪行きの大和路快速がホームに到着する。遅れたのは一回だけだ。
3月までは、ギリギリレギュラーメンバーが座れる4人席が余っているという状況だった。先日は…二人掛けの席がいくつも空いていた。いつもの癖で4人掛けの端っこに収まる。
そこから約40分で天王寺に着く。寝ていることがほとんどだ。
車内では、誰も会話しない。以前は週末になると、明らかに行楽地に向かう中年女性や週末だけ仕事のある女性の話声がときおり聞こえたが、今は全くない。
ただ、時々、誰かが咳き込むと緊張感が走る。くしゃみが聞こえると、花粉症だと思うようにしている。厭な緊張感である。
とにかく無言。みんなスマホを見ているか寝ている。経済新聞を広げているのはエリートサラリーマンの意地だろうか。
快速なので、奈良→郡山→大和小泉→法隆寺→王寺→久宝寺→天王寺という順番で停車する。王寺で大量に人が乗り込んでぎゅうぎゅうの満員電車になる。2月まではそうだった。今は、距離を保てるくらいには空いている。
お気づきかも知れないが、~寺とつく駅が4つ連続する。特に「王寺」と「天王寺」は一文字違いで、寝ぼけているといつも「王寺」で乗り過ごしたと思って慌てる。
そして、天王寺駅へ到着。以前は肩がぶつかるほど混んでいたが、今はゆったりと階段を昇ることができる。
改札を抜け、地下へ続く階段を降りる。この昇降口の上が喫煙所になっていて、いつもタバコの香りに悩まされる。慣れたけど。
地下に降りると、みんなやたらと早足になる。御堂筋線は3分と置かず電車が到着するので、そんなに慌てる必要はないのだが、中には走っている人もいる。けっこう危ない。それだけ慌てるなら、なぜもう一本早い電車に乗らないのかと、いつも不思議に思うが、それが彼らのルーティンなのだろう。
御堂筋線は乗る車両や立ち回りが悪いとマイナーな駅には「降りられない」というのが、私の認識だったが、今は悠々と降りられる。ここでも無言。ちらりと見るとマスクの装着率は100%だった。
そして、私は会社へ…。
この1ヵ月で、同僚たちのマインドが変わった。明らかに疲弊している。多分、上記の私のように無駄な緊張感を強いられているからだろう。旅行が趣味だという人は、そうとう参っているように思う。
こうして、コロナウイスは非感染者の日常も、無言の圧力をもって侵食してくる。マスコミでは、通勤電車の危険性が話題になることもあるが、実情はこんな感じだ。リアルサラリーマンや学生以外は、意外に知らない世界と思ったので書いてみた。
これは恐怖というより、疲弊である。
むかし、中小企業論を専攻していたので、こんな経営者の言葉を聞いた。
「中小企業経営の本質とは日々発生する問題との戦いである」
「毎日問題が起こるのは大変だが、おかげで商売だけは飽きることが無い」
「ピンチは改革のチャンス」
これは、ポジティブに捉えて書いたのではない。中小企業とは、平時よりこのような危機的状況をドライブするものなのだ。だからこのような非常事態に抗う財務的余力を持っている会社は少ない。
とはいえ、これは人間の人生そのものではないか。
そして私はどうるのだろうか? 少なくとも、何でもいいので、何か新しいことを始めたいと思っている。
(きうら)