- 原発事故地帯に住む姉妹の青春小説風
- 残酷描写は多め、重い展開
- 説明不足で不親切な構成
- オススメ度:★★☆☆☆
原発事故によって双子の姉妹の華織と紗織はバラバラになった。封鎖された30キロメートルの範囲に住む華織は、一種の無法地帯と化した封鎖地区で、同じくそこに住む一風変わった住人達と交流しながら一種のサバイバル生活を送っていた。もとは近未来を想定して書かれていたのだろうが、現在では現実になってしまった「原発事故によって封鎖された現代日本」という舞台で孤独な若者の殺伐とした生活が描かれる一種の青春小説(だと思う)。
作者に興味を持ったのはデビュー作品の設定だった。ゴミ捨て場に捨てられた少年の残酷な運命をテープに吹き込まれた少年の独白という形で描いた作品(D‐ブリッジ・テープ)だ。しかし、虫を食ったり、自分で足を切断したり、そういった残酷描写が目立つ他は「これだけでは何とも」というのが正直な短編だった。しかし、何か引っかかるものがあり、次の作品に当たる本作も続けて読んだ。
物語は封鎖地区で生活している華織の描写からいきなり始まる。SFでは前置き無しで始まるのはよくある事なのだが、これが実に分かりにくい。主人公のキャラクターが掴めないうちから、結構キツイシーンなどで物語が展開するが、感情移入できていないので読者は置いてけぼりになるのである。それならそれで、もう少し面白い見せ方をしてくれたらいいのだが、どうも何を伝えたいのか分からない。結果、何となく残酷な描写だけが上滑りしていく印象だ。それもリアリティがない。
分かりにくい原因はまだある。普通の物語の進行に、別のシーンがかなり頻繁にインサートされるのである。それは事故の様子だったり、紗織の視点だったりするのだが、正直うっとうしい。こんな構成にするくらいなら、はっきりと情景を描写して欲しい。作者としては劇的な効果を狙ったのかもしれないが、ただでさえ分からない情景が余計に分からなくなる。娯楽小説の読者はそれ程親切ではないので、作者の意図をじっくり考えてはくれないのだ。魅力的なキャラもいるのにいつまで経っても感情移入できないのは辛かった。
設定を生かしきれていないというのが全体の印象だが、他の書評では絶賛されていることも多い。この世界全体に対するある種の嫌悪感は、青少年期にこそ共感できるのものなのかもしれない。年を取った自分には辛いということか。
(きうら)
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