★★★★☆

たたり(丘の屋敷)(シャーリイ・ジャクスン[著]・渡辺庸子[訳]/創元推理文庫) ~あらすじと感想、軽いネタバレ

投稿日:2017年9月9日 更新日:

  • モダンホラーの古典的名著とされています。
  • とある幽霊屋敷の調査に参加した四人に起こる怪奇現象。
  • 参加者の一人「エレーナ」の視点から主に語られます。
  • おススメ度:★★★★☆

まず本書のタイトルについてですが、『たたり』とあるのは旧題で、これは映画の邦訳にあわせたもので、現在では『丘の屋敷』という(本来のタイトルに近い)題で出版されています。訳者が同じなので、おそらく内容に変化はないと思います(確かめていないので確言できませんが)。今回紹介するのは、『たたり』というタイトルの方です。その点ご了承ください。

本作の舞台は、建てられてから80年も経つ<丘の屋敷>です。モンタギュー博士は、幽霊屋敷としての<丘の屋敷>を調査するために、協力者を呼びかけ、集まったのが三人の男女です。ポルターガイストの経験者であるエレーナ。透視能力を持つとされるセオドラ。屋敷の所有者の甥であるルーク・サンダースン。主に、エレーナの視点から屋敷との関わりが描かれることから、彼女が主人公と言えます。彼女はこの調査に参加するにあたって、個人的な事情の解放から、屋敷に向かう途中では自由を感じます。この辺りが全編通しての彼女の心理に影響を与えているような感じです。

幽霊屋敷の調査に集まった四人の男女。彼らの経歴だけ見ると、何やら本格的な幽霊退治ものか何かかと思われますが、読んでいくとそうではないようです。エレーナは屋敷に着いてすぐ、この場所に厭な感じを覚え、セオドラの到着とともに二人して安心しあいます。幽霊(屋敷)と対峙して謎を解き明かそうとするには、最初から不安な出だしです。エレーナがまず出会うのはセオドラではなく、屋敷の管理人であるダドリー夫妻です。屋敷に毎日通うダドリー夫妻(特にダドリー夫人)は、この屋敷に恐怖を覚えているのか、決められたルーティンワークをこなすのがこの屋敷との関わりあい方なのか、ただたんに性格なのか、奇妙な存在です。あまり深い意味はないかもしれませんが、ダドリー夫人とのかみ合わない会話が、この屋敷の特徴との類縁性を表している気がしました。

やがて博士らも到着し、四人は博士から屋敷の来歴を聞きます。その時に、博士は夜の屋敷を一人で歩く危険を体験し、ここは(昼でも)一人で歩いてはいけないと忠告します(ここで疑問なのは、ダドリー夫人はなぜ一人で台所にいても平気なのか)。なぜ一人で歩いてはいけないのか明確にその原因が語られるわけではないのが、かえって怖い感じです。彼らは翌日から屋敷内を見回って、部屋にあるオブジェや、冷気を発する子供部屋など一つ一つの部屋を探りだします。図書室のおそろしい謂れや、この屋敷が自分たちを見張っている感じがすると博士から聞くところは、何か起こりそうな印象を受けます。ここで、博士は屋敷が設計上のある重要な特徴を持つことを発見するのですが、このことは、幽霊という非科学的な(ものとされる)ことより、この屋敷の異常さを科学的に明かすことにもなります。博士は終始この屋敷の謎を心霊的に探索することと共に、理性的なアプローチをとっているようにも思えます(両義的な感じでしょうか)。

後半部分に入ると、ようやく(?)怪奇現象と呼べるような出来事が頻発するようになります。この辺りから、エレーナの内面(描写)にも変化が現れ、読者は屋敷に同調する彼女に同調するように、恐怖現象へと導かれます。ここで重要なのは、何か霊体のようなものが現れて彼女たちを恐怖に陥れるわけではないので、読者は雰囲気を読み取る想像力が必要になります。あとは、エレーナにうまれる「心の綾」を読み取ることも必要でしょうか。

エレーナの心理の変遷が後半の読みどころです。幽霊(屋敷)への恐怖が引き起こす、人間の内にある現実への不安が、内的現象としての恐怖を喚起したと考えると、単なる幽霊話より怖いものがあります。「恐怖とは、つまり論理性の放棄、合理的思考パターンをみずから捨て去ったところに生まれる」という博士の言葉通りになると、どういったことになるかを表しているようです。最終的には彼女からは恐怖は消え去ります。彼女が感じるのは、屋敷と一体になり(囚われる)、(恐怖を通り越した)憑依感覚の結果うまれるちょっとした高揚感でしょうか。

ところで、作品途中から、博士の妻のモンタギュー夫人と、夫妻の友人であるパーカーが合流します。この二人は、四人とはちょっと毛色が違う存在というか、なかなか面白いキャラクターです。この二人には、停滞していた雰囲気を無理矢理動かしたような感じがあります。

(成城比丘太郎)


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