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ドラゴンヘッド(1)-(10) 【完結】(望月峯太郎/ヤングマガジンコミックス)

投稿日:2019年6月24日 更新日:

  • 世紀末漫画の傑作
  • 最初の方はよく出来ている
  • 収拾が付かなくなったのが残念
  • おススメ度:★★★☆☆

1995年にコミックスの初版を出版しているリアルなディストピアものの漫画。当時は、けっこうブームになって、映画化までされた(松田聖子の娘がヒロインで出ているが、出来は……)。何らかの破滅的な出来事が発生し、主人公がサバイバルを始める――というのは、こういった漫画の一定のフォーマットだが、他作品と比べ、痛みを感じる緻密な描写や謎が謎を呼ぶ展開が人気だった。

(概要から抜粋)修学旅行帰りの新幹線は、突然のトンネル落盤事故によってすべての光を失った……!! 闇につつまれ、血みどろになった凄惨な“墓所”。生存者はテル、アコ、ノブオ、3名のみ。

ほぼリアルタイムで読んでいたのだが、当時、鮮明に覚えているのが、電車の異常な揺れを「CDウォークマンの音飛び」で現わすところだった。その後、漫画界は様々なに発展したので、今では珍しくないが、こういった身近な「異変」を積み重ねる描写に引き込まれたのを覚えている。最も、スマホもケータイもない1995年。今更「CDウォークマン」などと言われても存在自体が「?」な人も多いだろう。

脱線した新幹線の中には死体が散乱し、ひどい有様。ただ、どちらかというと残酷描写が売りではなく、極限に追い込まれた人間の心の闇にスポットを当てた内容で、サイコ・ホラー的な要素が強い。特に新幹線の中を脱出するまでの数巻は、上記の3人の登場人物が徐々に追い込まれていく様子が、じっくりと描かれる。ノブオがだんだん狂気に飲み込まれていく様子は、1995年という世紀末を前にした、不安定な時代を現わしていたように思う。

そう1995年と言えば、「地下鉄サリン事件」「阪神淡路大震災」などが起こった年で、この作品が扱っている恐怖への「信仰」や地震といったものが、それらから何らかの影響を受けただろうと推察される(火炎旋風などもそうだろうか)。とにかく、そういった終末感が社会を覆っていたのは間違いなく、こういった作品が広く受け入れられる下地があった。

作画は本当に緻密で、廃墟などの描写もよく出来ていると思う。高校生らしいセクシャルな描写もあり、中高生・大学生辺りが求めるであろうスリルを、過剰な残酷描写に走ることなく物語っている点は優れている。

とはいえ、読み返してみると「高熱の地下」に「大量の死体」があるにもかかわらず、それらの腐敗の描写が無かったりして、当時は感じることが無かった違和感があった。新幹線から脱出した後は、廃墟の中を東京を目指して歩いていくのだが、途中から良く分からなくなってしまった。その原因は、タイトルのドラゴンヘッドに関連すると思われる、脳を改造された人物が出てくるのだが、この重要人物の存在意義がイマイチ分からない。恐怖を感じないというのだが、見た目のインパクト以上の衝撃はない。何だか分からないけど、宗教的な何か、という程度。

全体的にはやはりトンネル内で脱線した新幹線からの脱出が成功する辺りがピークで、その後は「何かが起こるぞ」と、仄めかしながら、最後は種明かしをすることなく終わってしまうのが残念だ。どうやら「核兵器が富士山に打ち込まれて噴火した」というような設定っぽいのだが、それの是非は語られず、主人公二人(テルとアコ)の視点で幕を閉じる。

こういう形のホラーでは、前に紹介したキングの小説「ザ・スタンド」の描写が優れている。単純にサバイバルという点では、さいとう・たかをの「ザ・サバイバル」の方に一日の長がある。そういえば、あの設定とほとんど同じ描写だったような。そんなわけで、オリジナルティは低いと思うのだが、肌感覚のある描写は今でも通用すると思うし、絵も古くなっていない。

ラストの肩透かし感を許せるのであれば、今でも読んでみてもいいと思えるシリーズ。まあ、私もそうだが「ある日突然日常が壊れる」ことへの憧憬は、歪んだ救済への願望だろうか。そんなことを考えつつ、本書を読んでいた。

(きうら)

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