★★★★☆

ヒトごろし(京極夏彦/講談社) 【概要編】ネタばれなし(歴史ものにネタばれがあるとして)

投稿日:2019年7月12日 更新日:

  • 土方歳三目線の新撰組伝
  • 徹底した「ヒトごろし」の理屈
  • 面白い、そして長い
  • おススメ度:★★★★☆

【はじめに】
私は京極夏彦好きなので、この本もKindle版でサンプルをパラパラ読んで、買うことを決めた。しかし、そのサンプルがやたらと長い。その時は深く考えずにダウンロードしたが、本の長さは1218ページとあった。最近、読書力が鈍ってきているので少し怯んでしまった。Kindleには読み終わるまで13時間と出ている……今、90%読んだところで感想を書いているので概要編となっている。今回は、ざっと簡単にこの本の魅力を述べてみたい。

【誰にでも面白い】
近年の京極作品は、確かに面白いが、著者の作品を読んだことのある「経験者」向けの内容のものが多かった。その点、新撰組(Wiki)を題材にした本書は非常に分かりやすい。テーマもそうだが、終始、土方歳三の視点で物語が進行するので、話の筋に迷うことがない。また、この土方歳三像。ヒトごろしにしか興味が無いという設定なのだが、やたらと考えが明晰で、非常に優秀な語り手である。さらに物語的な飛躍が少ないので、彼の成長過程がよく分かる。等々、この本を読ませようとする強烈なエネルギーが溢れていて、久しぶりに著者の本気を見た気がする。まあ、題材が題材だけに残酷なシーンもあるが、乾いた描写なのでさほどグロテスクではないだろう。むしろ、そこに美学を感じるようなつくり。

【ためになる】
全くシャレにならないが、私は歴史音痴過ぎて、新撰組の概要さえよく知らなかった。興味が無かったのである。随分昔に司馬遼太郎の「燃えよ剣」、浅田次郎の「壬生義士伝」を読んで、ビートたけしの映画を観たようなそうでないような、そんな程度で、しかも詳細は忘れた。ただ、土方歳三と近藤勇、沖田総司、吉村貫一郎のイメージがボンヤリとあるだけである。そんな私とって、上記の分かりやすい文章で、新撰組の成り立ちから崩壊までを仔細に語られるのは、非常に興味深い。かつ、幕末の「流れ」と言うものがよく分かるのである。あくまでも創作であるのは当然として、上記の面々に加え、坂本龍馬や勝海舟なども登場し、池田屋事件なども盛り込まれるので、事実を知りたいと思わせられる。色んな意味で、まさかこれを教科書には載せられないとは思うが、もし、この本を読んでいたら、高校の歴史の授業にも身が入ったと思う。

【キャラクターに魅力がある】
本当の土方歳三がどう言う人か、ということは野暮として、主人公の冷徹な視点は非常に魅力的だ。自分がヒトごろしになってしまいそうな雰囲気に飲まれる。また、沖田総司が「ドブネズミ」として、土方と同等の人外(にんがい)として描かれていたりする。暇さえあれば犬猫など生き物を切って回り、機会が有れば人の首を刎ねるのを無常の喜びとする沖田総司像はゾクゾクする。それが土方と対立するのだから、緊張感があっていい。初代局長の芹沢鴨なども、如何にも悪漢としていて、これを切るシーンまでのやり取りが素直に面白い。全員がダークヒーローと言ってもいいような描かれ方だが、不思議も陰惨さはなく、娯楽作品として成立している。斎藤一や藤堂、板倉など、山南、永倉、原田、伊東甲子太郎など、錚々たる面子が次々と現れては消えていく様はただただ爽快である。

【でもやっぱり長い】
私は長い話は大好きだ。どんな長編でも、時間さえ許せば読めないとは思わない。とはいえ、軽い読書に1200ページを超える本が向かないのは明らか。しかも、短い台詞で改行されている訳ではないので、文字数が多いのだ。読みやすいのは間違いないが、一つのシーンがひたすらに長いという特徴がある。なので、興味があっても長編は苦手という人には強く勧めない。

【概要まとめ】
以上のように、私は今回ほぼ良いところばかり書いたが、公平に見ても読み応えのある良い小説だと思う。ホラー的な怖さは余りないが、ヒトごろしがテーマなので、猟奇的な趣味も満たされるだろう。私は、ヒトごろしが唯一の生きる目的である土方歳三を通して、逆から人間の良さを描いているポジティブな小説に思えた。とにかく、最後まで読んで、もう少し中身にも触れてみたい。読書好きな方なら、何らかの楽しみを得られる、そんな作品である。

(きうら)


-★★★★☆
-, ,

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

カフカの父親(トンマーゾ・ランドルフィ、米川良夫・竹山博英・和田忠彦・柱本元彦[訳]/白水Uブックス)

かなり狂ってる人が登場する 奇想とユーモアとナンセンスとシュルレアリスムと 語り手の饒舌さ 奇妙さ:★★★★☆ 【はじめに】 トンマーゾ・ランドルフィ(1908-1979)は、イタリアの文学者。いつか …

パンドラの少女(上)・(下)(M・R・ケアリー/創元推理文庫) ~あらましと感想、軽いネタばれ

不気味な存在が跋扈する、ポスト・アポカリプスもの。 荒廃した世界での、命をかけたサバイバル。 自分は何者なのか、ということに苦悩する少女。 おススメ度:★★★★☆ 世界は「<大崩壊>」という人類の危機 …

バーナード嬢曰く。<1巻> (施川ユウキ/一迅社)

読書家(ぶりたい人)必読のマンガ。 本を読んだつもりになれ…いや、読みたくなる一冊。 こんな学生は、なかなかいないだろうな。 おススメ度:★★★★☆ このマンガは、去年アニメ化もされ、今さら取り上げる …

赤目四十八瀧心中未遂(車谷長吉/文藝春秋)

昭和の尼崎で臓物をさばく堕ちたインテリの悲哀 とにかく猥雑。あらゆる人間の醜さが描かれる 異様な文章力で一度囚われると離れられない おススメ度:★★★★☆ 久しぶりにとんでもないものを読んでしまったな …

メドゥーサ(E・H・ヴィシャック、安原和見〔訳〕/ナイトランド叢書)~読書メモ(46)

「幻の海洋奇譚」 海洋冒険ものの序盤から、怪奇ものの後半へ 恐怖とは暗示に満ちた不定形なもの おススメ度:★★★★☆ 【はじめに】 『メドゥーサ』は1929年発表で、海洋冒険を装った怪奇幻想小説。本書 …

アーカイブ