★★★★☆

マークスの山(高村薫/新潮文庫) ~あらましと感想

投稿日:2017年7月8日 更新日:

  • 謎の殺人者マークスを追うミステリ
  • 硬質な文体と警察小説の側面
  • なかなかの読み応え、オチはまあ納得
  • おススメ度:★★★★☆

山というものは、ある種の人間にとって非常に魅力的に感じるものだ。私は登山家ではないのだが、郷里が山里のため、町の中のどこにいてもぐるり360度全てに山が見える。実家の窓から西を見れば、空は3割位しか見えない。それが当たり前であり、常識であったので、若いとき地元のスーパーのバイトで一緒になった女性が「自分は津(三重県の県庁所在地・海辺の町)で育ったので、空が狭くて圧迫感を覚える。このままいたらおかしくなりそう」と、言われたのが印象的だ。そうか、そういうものかもしれない、と、当時は思った記憶がある。山というものは、そこに住む者にはわからないが、やはり「圧迫感」を伴って迫ってくるもののようだ。

そういった「山」をモチーフにした高村薫の本作。あらすじというか、導入はこんな感じ。幼いころ、犯人はある強烈なトラウマを負い、その後の人生に多大な影響を及ぼす。それは時を経て、連続殺人事件へとつながっていく。その事件とは、南アルプスで発見された白骨死体や、三年後に東京で発生した、アウトローと検事の連続殺人など。都会で暮らすある青年の心の中には、ある種の闇が潜んでいた。主人公である、警視庁捜査一課・合田雄一郎警部補の眼前に立ちふさがる、一見関連のない連続殺人事件の裏にある真相とは?

構成としては、章立てにはなっているが、その中で細かく日付、例えば(昭和51年秋)などと記されていて、事件の真相をほのめかせながら、警察が必死に捜査する様子が描かれる。硬質な文章は上質な警察小説としても成立している。合田雄一郎警部補をはじめ、刑事たちは、小説の中で互いに憎んだり争ったりしながら、事件の真相へと迫っていく。

私自身「警察小説」というジャンルが結構好きだ。その理由ははっきりしていて、私は「真剣に働く男」にかなりの好感を持っているからだ。警察に限らず、コンビニに荷物を下ろす運送業者の人、必死にペンキを塗っている外装職人の方、鋭い営業を繰り返す営業マン、命を削って働く男は例え、はた目からはブザマに見えてもその心根はかっこいい。街で見かけると思わず応援したくなる。

閑話休題。そういった警察小説的側面と、犯人捜しのミステリが融合し、もともと高い筆力で書かれているので、少々読みにくい感じはあるが、十分上質な小説の類に入るだろう。犯人のオチや行動理由には若干の疑問も感じるか、そこまで大きな瑕疵ではない。かなりの長編小説なので、じっくり腰を据えて読まれてはどうだろうか。

(きうら)



マークスの山(上巻) (新潮文庫) [ 高村薫 ]


マークスの山(下巻) (新潮文庫) [ 高村薫 ]

-★★★★☆
-, , ,

執筆者:

関連記事

方形の円(ギョルゲ・ササルマン、住谷春也〔訳〕/東京創元社)

「偽説・都市生成論」という副題。 「36」もの都市像が、雪崩をうつように現象する。 それぞれがひとつの宇宙観を凝縮した都市。 おススメ度:★★★★☆ 【まえおき】 著者はルーマニア出身で、現在はドイツ …

神聖喜劇(1)(大西巨人[原作]・のぞゑのぶひさ[漫画]/幻冬舎)~紹介と感想

大西巨人の大作の漫画化作品。 軍隊内の克明な記録。 主人公東堂太郎の博覧強記ぶり。 おススメ度:★★★★☆ 今回取り上げる本は、大西巨人(wiki)が執筆に25年もかけた大作『神聖喜劇』の漫画化作品で …

ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち (ティム・バートン監督) ~感想と軽いネタバレ

異能者たちの苦悩と戦い 純粋なエンターテイメント映画 不満もあるが概ね良くできている おススメ度:★★★★☆ (あらすじ)リア充になれないオタク系男子のジェイクは、祖父の謎の死に遭遇する。祖父は奇怪な …

古井由吉自撰作品(一)(古井由吉/河出書房新社)

初期作品では個人的に一番好きな小説である『行隠れ』を読む。 死者と生きる者が、一人の若者に重なりあう。 一つの死が家族のありようを浮かびあがらせる。 おススメ度:★★★★☆ 【はじめに】 近年出版され …

死の家の記録(ドストエフスキー[著]、望月哲男[訳]/光文社古典新訳文庫)

ドストエフスキーの体験を基にした記録的小説。 ロシアにおけるシベリア流刑(囚)の様子。 エピソードを連続的に描いていくので読みやすい。 おススメ度:★★★★☆ タイトルにある「死の家」とは、監獄のこと …

アーカイブ