★★★☆☆

人喰いの時代(山田正紀/ハルキ文庫)※ネタばれ余りせず

投稿日:2019年6月19日 更新日:

  • クラシックな探偵小説
  • と、見せかけての大落ちあり
  • 不思議な読後感
  • おススメ:★★★☆☆

著者は著名なSF作家兼ミステリ作家だが、例によって突発的鳥頭思考でこの本を読んだので、一切、そんなことは知らなかった。その他、ありとあらゆる予備情報がなく、まさにジャケ買いならぬ、タイトル買いした一冊。その割にはなかなか楽しく読めたな、という印象。インパクト抜群の書名だが、中身は探偵小説、ミステリと思ってもらって間違いない。

(概要)昭和初期、東京からカラフトへ向かう船上で、変死体が見つかる。そこで得体の知れない若者・椹秀助(さわらしゅうすけ)は、同じく得体が知れず、「人間を探求する」と嘯く呪師霊太郎(しゅしれいたろう)と出会う。二人は成り行きからその謎の解明に取り組む……連作短編となっており「人喰い船」から始まり以下「バス」「谷」「倉」「雪まつり」「博覧会」と計6篇が収録されている。

主役二人の名前でも分かる通り、えらく時代がかった設定で、最初のお話を読み終えた時点では、「これは本選びを失敗した」と思った。「人喰い」というのはあくまで比喩で、そんなにたくさんの人間が死ぬわけでも無く、黎明期の探偵小説のような単純なトリックが展開されていたからだ。キレるミステリ性も無く、ホラー要素も無いとなれば、読む意義があるのかと疑ってしまったのは仕方ない。が。

探偵小説の清く正しいフォーマットに則って、呪師霊太郎は、洞察力に優れたホームズそのもので、相棒の椹秀介はワトソン役だ(ただ主役は椹の方だ)。ステレオタイプ過ぎて、どうしようかと思ったが、買った以上、読み進めるのが身上なので、とにかく、次の「人喰いバス」に進んだ。ここで、導入から少し肩透かしを食らった。タネ自体は単純だが、著者が「何かを仕掛けてきてる」気がした。その予想はある意味当たる。

ちなみに背景として、特高警察と「赤狩り」というテーマが盛り込まれていて、物語の核心にも関係してくる。どちらかというと活動家の目線で描かれている。ただ、プロレタリア文学的な要素は余り強く無いと思う。「蟹工船」なども作中で登場するが、あくまでそういう時代性を扱った、というレベル。

さて、「バス」から「谷」へと読み進めると、どうも男女の心の機微がテーマか? と思わされてくる。主役二人に色気はないが、犯罪はほとんど色恋沙汰が絡んでくるからだ。「倉」などは、一種の恋愛小説でもある。古典的ではあるけれど、「女」の情念というものが、意識して描かれている。テンポもいいので、だんだん、本作の古臭さも気にならなくなってくる。

で、後半。あることに気づく。ペース配分である。すでに5篇を読み終わったのにまだ、本の分量は1/3は残っている。そう、最後の「人喰い博覧会」だけが特別長い。もちろんこれは意図されたもので、最終話の冒頭で、既に違和感を持つ。これまで敢えて舞台は北海道の「O-市」と書かれていたのに、いきなり小樽市と明記される。これは誤植かと思ったが、もちろん違う。ここからは実際に読んでもらった方が面白いだろう。

真にロジカルな推理物が好きな人からは評価が分かれると思うが、私にはここまで読んできて良かったと思えるオチだ。割と同じようなことを思いつくからかも知れない。とは言え、元々古い作品でもあるし、解説でも触れられているファンタジックな雰囲気があるので好みは分かれそう。

ホラー的な視点はほぼ無いものの、中々味わい深い作品だった。このタイトルはうまい。ついでにうまく騙されてみたい人向けにおススメ。

余談だが、本作の政治的な要素からどうしても現在の日本の現状を考えてしまった。統計ごまかし、口利き、暴言、年金、少子化、外交の稚拙さなど、どう見てもダメ政府だと思うのだが、何でこんなに支持率が高いのだろう。野党が弱過ぎというのも確かにある。ただ、今更オルグしろとは言わないが、もう少し怒ってもいいと思う。芸能人の醜聞に一喜一憂してる場合じゃ無いと思うのだが、まあこんな所で天下国家を論じるのは筋違いなのでこの辺で。

(きうら)


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