★★☆☆☆

他人事(平山夢明/集英社文庫)

投稿日:2021年1月1日 更新日:

  • シュールで黒い創作短編ホラー集
  • 理不尽を通り越して異空間化
  • 実話会談の方が好み
  • おススメ度:★★☆☆☆

明けましておめでとうございます。

ていうか皆さん、ホラーなんて普段、読まないでしょう。特に私が好むJホラーや実話怪談系なんて、読んでいる人は見たことがない。ただ、そんな中にあって、昨年、唯一ホラーを読んでいる知人ができた。その人に勧められたのが、この平山夢明という作家だ。自分で買ってきた異常快楽殺人も偶然にこの人の作品であったし、どうも昨年末には縁があったようだ。その知人と異常快楽殺人をトレードして、「最後まで読めないほど怖いので、ぜひ感想を聞かせてください」と言われたのが本書「他人事」である。そう、年明けの挨拶はやっぱりホラーから始まるのだ。

(概要・Amazon紹介文から引用)
交通事故に遭った男女を襲う“無関心”という恐怖を描く表題作、引きこもりの果てに家庭内暴力に走った息子の殺害を企てる夫婦の絶望(『倅解体』)。孤独に暮らす女性にふりかかる理不尽な災禍(『仔猫と天然ガス』)。定年を迎えたその日、同僚たちに手のひら返しの仕打ちを受ける男のおののき(『定年忌』)ほか、理解不能な他人たちに囲まれているという日常的不安が生み出す悪夢を描く14編。

とにかく、シュールが行き過ぎてなんだかよく分からない不条理な物語ばかりになっている。オチはそれなりに衝撃的なもの(作者的に)が採用されることが多いが、途中に現実感がないので、そのオチの切れが悪い。リアリティあってのどんでん返しなので、なんだかなぁ、と思っていたら、最後まで読んでしまった。そういう訳で、ちょっと不思議な感じの、そしてグロテスクな描写そのものが好きな方には勧められる程度。以下、各話について短い感想を書く。

「他人事(ひとごと)」
谷間に転落した自動車の中で、死にかけている親子3人というシチュエーション。痛みの描写がかなりキツいが、このサイトの読者なら読めないレベルではない。そこへ、一人の男が現れるのだが、この男がのらりくらりと、三人を助けようとしない。この不条理なやり取りを楽しむ小説。オチはまあ、そこそこ衝撃的だが、何となく釈然としない部分もある。彼らの陥っている状況がイマイチ理解できないことが原因か。クーンツの小説にも同じようなシチュエーションがあったし、鋸ネタはSAWでも観た。作者のホラー愛は伝わってくるが……。ただ、この作品が全体の中で一番面白いので、これで満足したら、以下、読まなくても支障はない。

「倅解体」
これもタイトルそのまんま。引きこもりの暴力息子、冷たい家庭、その末に決断される「息子の解体」。細部はリアルだが、妻の台詞がわざとらしすぎて冷めた。オチでいえばこっちの方が表題作より分かりやすい。★3というところ。
「たったひとくちで……」
カニバー要素のあるホラーだが、まだ、救いのある方。最後でぞっとさせたいのだろうが、読書中、その「最後」がずっと頭に浮かぶので、これは失敗だ。ありそうでない、という絵空事になってしまっているのも残念。ここは飛ばしてもいい。
「おふくろと歯車」「子猫と天然ガス」前者は青春ゾンビもの(?)、後者は完全な不条理劇。どちらも表現はドギツイが、内容は笑ってしまうような単純なもの。ここまで読んでくると、作者は「自分の書きたいもの」を書いているのだな、と感じる。
「定年忌」はあとがきでも触れられているように、筒井康隆か椎名誠の不条理短編物のような内容。定年になったらすべての人権がはく奪されるということだが、この設定の陳腐さに読むのが嫌になった。こういうのは別の本にまとめてほしい。
逆に「恐怖症召喚」はちょっと不思議なラノベ・ホラーのようで、この本の中ではお気に入り。題名通りに他人に恐怖症を発動させることができるロシアの少女と気の弱いヤクザの話。一種の能力バトルものと言えるが、ラストも含め、一番物語として楽しめる一篇だと思う。
「伝書猫」は、最後まで読むと「ああ、またこのパターン」と分かる一種の叙述もの。特に感想はなかった。
「しょっぱいBBQ」は、夫が24歳、妻が46歳という年の差カップルが4歳の息子を連れてBBQに行ったら、頭のおかしい殺人鬼と遭遇するというありがちな内容。想像するとキモいが、キモいだけで怖くはない。この話自体がしょっぱいのは作者自身の意図したところだろうか。
「れざれはおそろしい」が学園もの。なんだかミステリ仕立てになっていて、視点がコロコロ変わるが、普通の作品。読んでる間は興味深いが、それほど残るものはない。
「クレージーハニー」はどうもエイリアン2っぽいものをイメージさせるSFホラー。人類の居住地を開拓、囚人が送り込まれる、セクサロイドが暴走……まあ、聞いたことある要素が満載ですね。珍しいスカトロ要素が入っているが、そもそもセクサロイドに人を殺すようなプログラムを仕込んでいるはずはなく、また、そんなパワーは必要ないわけで、なんだか盛大にいろんなことを誤解されているような気がする。
「ダーウィンとべとまうの南瓜」もイマイチよく分からない近未来SFブラック企業もの(?)。設定が非現実的すぎて、何も感じない。どうせやるならうなぎ鬼くらい徹底してほしい。
「人間失格」タイトルを読んで読む気を無くしたが、中身もそれ相応のもの。自殺志願者の女性を同じく自殺志願者が引き留めるという内容だが、オチは表題をなぞっていて、一番胸糞の悪い話になっている。アイデアはいいが、面白いとは思わなかった。
「虎の肉球は消音器(サイレンサー)」男3人の友情物語だが、何が主題何だかよく理解できない。ラストの物語だが、単に作者が思いついた設定を披露しているように見える。オチてないし、そもそも設定が意味不明。

だいたい、いつも通りの悪口になってしまったが、多分、この短編集自体が「陳腐」なのだと思う。作家らしい閃きを感じない、中途半端なリアリティとアイデア、結末という、なんとも評価し辛い短編集である。それでもOKというホラー紳士かたはぜひどうぞ。

さて、現実の恐怖が小説の恐怖を追い越している今、何を読めばいいのか、また、書けばいいのか。それでも、究極の一冊を求めて、今年もチマチマとホラーを手にとっては読んでいきたいと思います。どうぞ、よしなに。

(きうら)


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