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最近読んだ幻想・怪奇(ホラー)もの~読書メモ(59)

投稿日:2020年3月13日 更新日:

  • 最近読んだ幻想怪奇ホラー
  • クトゥルーものから秘境ものまで
  • まあまあよかった
  • オモシロ度:それぞれ

【はじめからグチを書くので、読みとばしてもらって結構です】

先日政府が発表した(新型コロナウイルス感染防止についての)自粛要請を受けて、全国各地の公共図書館が3月に入ってから休館になったようです。検索して調べたところ、3月から休館に入ったところと、2月中(2/29・土曜日)からはやくも休みにしたところがあるようです。私が利用するところは、待ってましたとばかりに2月から休館にしてしやがりました。個人的には週末しか利用しないのでこれには困ってしまった。予約したものを取りに行けなかった。しかも休館期間が延びたらどないしろというねん。おそらく自治体は、土日に利用者が殺到するのをイヤがったのでしょう。一応周辺では感染者はでていない(ということになっている)けど、休みにするのを早めようが今さら遅いわ。学生生徒さんのなかには、図書館から本を借りて休みの時に読もうと思っていた奇特な人もいないとは限らないのに。まあ、私も含めてセコイ住民が多いから休み前には実際殺到することは予想されるだろうし。

ほんで、ニュースとかをチラッと見ると、スポーツ関連の話題については、ほとんどが野球関連のことばかり。いやいや、Jリーグはもうシーズンはじまってますがね。サッカーは野球と違って、週にできる試合数は二試合くらいしかないので、このまま中断が長引けば日程的にえらい大変なんだが。それと、ジャーナリスト氏の中には「政府が支持率とオリンピックのことばかり考えている」というようなよく分からない発言をしている人がいたけど、一般メディアのほうこそオリンピックばかりじゃあないか。この度の騒動(?)が起きる前に、東京発信のメディア(NHK)で、オリンピック開催への否定的な意見が言えない風潮があることへの違和感を申し立てていたのは、私が聞いたなかでは唯一タレントの伊集院光だけだった。しかし、そういった異見もこの度のことで、逆に言いづらくなってしまった。そのジャーナリスト氏も、オリンピック開催反対を申し述べればいいのに(棒読み)。

以上、恒例の愚痴のコーナーでした。

【幻想もの】

・アンナ・カヴァン『草地は緑に輝いて』(安野玲・訳、文遊社)

一九五八年に出された作品集。けっこう読みやすいものだった。画家でもあったというカヴァンらしく、色彩の鮮やかさがよいかんじ。とくに青が個人的には気に入った。それと、不安や孤独・孤絶といったものもあるが、それほどヒリヒリするものではなかった。

表題作の「草地は緑に輝いて」は、緑という色もさることながら、夢の中の出来事のよう。旅行先で「わたし」が見たのは、草地で半裸の人が滑車から吊るされて草刈りをしているものや、増殖する鋭い刃を持つ緑。なんだか個人的には、夏にはびこる緑たちに死への不安をおぼえることがあるけれど、読んでいてそれを思い出した、なかなか鮮烈な一編。

「受胎告知」や「幸福という名前」は閉塞感のあるものだけど、それぞれの年齢における境遇は違う。どちらも孤独というものの結晶化のようなことを感じた。

「ホットスポット」は、ジャワ島らしきところに到着した船で聞いた、不思議な飛び降りの男の話で、「氷嵐」は、それとは逆に『氷』を思わせるコネチカットでの体験談。コネチカットではこういった氷雪によく襲われるらしい。

「小ネズミ、靴」や、「或る終わり」には、動物が出てくるけど、ネズミは比喩的に使われているのだろう。「ネズミ」には、「臆病な人」や「恋人」という意味があるらしい。後者に出てくる弱りゆくアザラシの描写はかなしい。

「鳥たちは踊る」が、集中で一番の傑作でしょう。旅先で見た寂しい湖の様子が、後に一変して、鳥たちの狂宴に変貌し、そして巨大な建造物を幻視?し、そこへ住人たちが現れ大騒ぎの歓喜の宴となる。これこそ幻想小説の極みといえるようなよい短篇。カフカ的かなと思ったけど、それほどわかりにくさはなく、ちょっとした映像作品を見ているようだった。

その他、色々あったけど、アンナ・カヴァンを楽しめた。

【クトゥルーもの】

・ヴィクター・ラヴァル『ブラック・トムのバラード』(東宣出版)

現代のアフリカ系アメリカ人作家がラヴクラフトの作品をリライトして、別の味わいを出したという印象の作品。「1924年、ニューヨークに住むアフリカ系の若者トミー・テスター」を主人公に、黒人差別(というか黒人への暴力)の激しいアメリカを、ラヴクラフト作品を下敷きに書いたと感じるので、なんだかクトゥルーものを読んだという気がしない。何かまた別の息苦しさを感じた。でも後半からは、きちんとクトゥルーもののホラーになっていてよかった。というか、本書がアメリカで評価されたことのわけには、当時の黒人差別が描かれているとするなら、なんかちょっと片手落ちかも。ラヴクラフトって、差別意識を持っていたのはおそらく黒人だけじゃないだろうし。そのことは現代にも通じていると思うんだが。まあそこらへんは、実は本作品ではうまく書けているんだけども。

ところで、「レッド・フック事件」を生き延びたマロウン刑事のもとへ、数名の一般人から問い合わせがきてるんだけども、その中に執拗に問い合わせる人間がいて、そいつは結局ニューヨークから追い出されてるんだが、こいつってラヴクラフト本人のことじゃないのか。

【クトゥルーもの(2)】

・『クトゥルーはAIの夢を見るか?』(青心社)

現代日本人(と思われる)作家による、現代版クトゥルーアンソロジー。書き下ろしだけども、これら作家のことを何も知らない。解題解説とかないので何者やらわからない。作品コンセプトは基本、「クトゥルーVS人工知能」というもの。超ハイスペックの「人工頭脳」が出した選択や、インスマスらしき町に引っ越した女性がAI搭載のぬいぐるみと協力して危機を脱したり、高校生たちが邪神の眷族と戦ったり、邪神様をヴァーチャルユーチューバーにしてみたりと、なんかどんどん内容はラノベになっていく、というか、クトゥルーmeetsラノベ。『ブラック・トム』の後に読むと、気が抜けた炭酸のよう。あまりこういったラノベ風のものは読まないので、かえって新鮮だった。

【冒険譚らしきもの】

・ジェイムズ・ヒルトン『失われた地平線』(河出文庫)

イギリス人の主人公が、数名の欧米人たちと、ヒマラヤの奥地にある秘境に連れていかれるという筋の話。その秘境とは、「シャングリ・ラ」と呼ばれるところだった。おそらく第一次大戦で「無感動」になった主人公のコンウェイは、チベットにいた「中庸を徳とする」老師に魅かれ、なんだかんだで、時間がたたないその地の「怠惰」さが気にいる。

秘境もの冒険と思ったけど、そんなものは欠片もなかった。ただ、主人公のコンウェイがシャングリ・ラの地でなんやかんやと尊師たちと話をしまくるというだけ。しかし、それがかえって良かった。若い時に読んでたら「つまらんな」と思ってただろう。「シャングリラは永遠の神秘から蒸留され、時間と死を超えて奇跡的に保存された芳醇な酒にも譬えるべき澄んだ霊気で心を洗うようだった」(p192)と感じるコンウェイは現在に満足を感じるだけ。「大ラマ」との接見も彼に満足を与えるのだが、物語の結末はどうなるのかは、ここには書かないでおきます。この物語の語り(の構造)や、彼の結末がミステリ的なのかな。しかしこれってミステリなんだろうか、よくわからない。

ところで、主人公たちはところどころで、《中国人はすばらしい》と言っているんだが、今のチベットの状況を見ると何とも言えない。ほんで、その地に日本人がひとり来たというのだけども、アカンやつだったとのこと。それはいったい誰のことなのだろうか(エコー)。

(成城比丘太郎)


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