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★★☆☆☆

世界の中心で、愛をさけぶ(片山恭一/小学館文庫) ~ベストセラーを読む

投稿日:2018年5月12日 更新日:

  • シンプルなラブストーリー
  • 恐ろしく早く読める
  • なぜ売れたのか、一応分析してみる
  • おススメ度:★★☆☆☆

久しぶりの「ベストセラーを読む」はずいぶん古い。2001年に発刊され、2003年に一気に売れたとある。最終的に321万冊以上とあるから、本当にベストセラーだ。私は、当時の話題になった年に、ハードカバーで買ってきて、一気に読んで投げ捨てた。その時の感想は「発情した高校生が病気の彼女にアプローチするだけ」という身も蓋も無いものだった。その印象はずっと続いていて私が「セカチュー」を蔑んでいたのは間違いない。

(あらすじ)
高校2年生の朔太郎と、恋人のアキという二人。冒頭でアキはすでに死んでいる。途中はひたすらふたりの恋愛模様を、ちょっと文学的に、朔太郎の祖父の恋愛と絡めながら描く。途中からはアキが白血病にかかる。そして、彼女は死に、生前に約束していたオーストラリアへの旅行に彼女の両親と行く。

読み始めてから30分ほどで読み終わった。複雑な設定がないので、それはもうストレートと言えばストレートな恋愛小説で、ちょっと文学かぶれの朔太郎が、可愛い恋人のアキに欲情し、遠回しなアプローチであるが、夢も希望もない言い方をすると「合体」するために努力する。しかし、肝心の恋人が白血病にかかってしまい、それを断念せざるを得なくなったという筋立て。冒頭でアキの弔いの描写があるので、ネタバレも何もなく、むしろ定められたレールに従って一直線にこの物語は予想通りに進んでいく。

それにしてもホテルに入ろうとしたり、無人島で一晩過ごそうとしたり、朔太郎は表面上はクールだが、頭の中は思春期そのもの。それ自体は悪くないが、アキのキャラクター設定が若干弱いがために、どうしてもこの朔太郎の「暴走」をただ読んでいる気分になってくる。妙に気取っているので、余計にそこが浮かび上がってくる。色々理屈はこねているが、結論としては、普通の恋人関係を推し進めようとしているようにしか読めない。

これが2万部程度売れたというならわかる。村上春樹の小説から、独特の性的センスと毒気を抜いたような話で、読みやすいことは間違いない。ただ、当時から疑問に思っていたのだが、高校生の美男・美女が大した理由もなく付き合って、彼女が病気になって亡くなって、そのあと、残った主人公が「愛をさけぶ」なんて、ステレオタイプを通り越して、もはや恋愛小説の例題ではないか。この内容で何を感じろというのか、と、ひねくれた私は15年経っても同じことを思う。

しかし、である。これがベストセラーということは「ちょうどいい話の流れと長さ、読みやすい文体、その時代に合ったテーマ」というものが、確かに存在していて、その針の穴を通すような微妙な設定をこの小説は持っていたのだと推測する。タイトルのインパクトもあるだろう。大多数の人間は日常的に小説なんて読まないと思っているのだが、その大多数に訴えかけるには凝った設定も、変なギミックもいらない。分かりやすさ、素直さ、あとは魔法のスパイスとタイミング、これが必要なのではないかと思う。

もう中年になったので、正直に書くが、たぶん、この小説への私の嫌悪感は「嫉妬」に違いない。こんな彼女はいなかったし、こんな恋愛はなかった。もっとこう、屈辱と虚しさに満ちたものだった。モテない人間が僻んでも仕方ない。恋愛に対してあこがれを持つことのできる年齢か、昔モテた人間か、もっと達観した方ならこの小説の持つ繊細さを理解「しようとする」だろう。

と、ここで止めるつもりだったが、本の帯を眺めていて気が付いた。感想を書いているのは全部女性なのだ。

「泣きながら一気に読みました。私もこんな恋愛をしてみたいなって思いました。/柴咲コウさん」
「最初に読んだ時から2日経ちました。でも、ただずっとこの本のことを考えています(後略)/19才・女性」
「私の人生の一冊になると思います(後略)/17才・女性」
「(前略)涙が出そうでした。何回も読み返しています。/21歳・女性」

そうか、これは女性にとって理想の男性像なのだ。適度にグイグイ迫る行動力がある一方、祖父と過去の恋愛を共有する繊細さ、知的でミステリアスなところ、そして、病身の彼女を空港に連れていく献身的・盲目的な愛情。もちろん、容姿は端麗でなければならない。ヒロインに強いキャラクター性が無いのも納得。感情移入するのに特異な設定は邪魔だからだ。

なるほど、この主人公に共感できない=(一般的な)女性の求める愛情が分かっていない、という事だから、私の若いころのダメさ加減は必定だったのだ。そこに今、気が付いても仕方ないのだが……。現実はそう簡単にはいかないとは思うが、女性視点で読むべきだったと後悔している。当たり前だが、世界の隅っこで、ぼそぼそと愛情を呟いていても仕方なかったのだ。深く悟了した。

(きうら)


-★★☆☆☆
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