- 本当に、簡単に読めるエッセイ。
- 一人キャンプの、絲山的堪能法。
- これを読んだ後には、酒と、旨いメシが食いたくなる。
- おススメ度:★★★☆☆
芥川賞作家絲山秋子、このエッセイ連載当時、40歳になったところ。雑誌の連載名目のため、サバイバルの旅に出た。こう書くと、何か、格好いい感じがするが、実質は(主に)一人でキャンプ場へ行き、その様子を報告したもの。行く場所は、関東近郊の山奥にあるキャンプ場から、出版社の社屋内から、時には海外へと及ぶ。果して彼女を待っているものは何か。何かあるのか。
サバイバルというと、あるいは自然に立ち向かい、あるいは自然の恵みを受け、極力自分の力で、生き延びることに、主眼が置かれるものだろうが、そのような要素は、この本には基本的にはない(キノコ採集したり、日帰りキャンプでワカサギ釣りしたりとかはしますけどね)。ましてや、山奥で熊とたたかうなんてこともなく、無人島でロビンソン的生活をおくるなんてこともなく、ただ単に、車でキャンプ場に向かい、火をおこし、旨いメシをかっ食らい、酒を飲み、最終的には「眠剤」を呑んで、テントの中でぐーすか寝るだけ。
まだ「嫁入り前」のアラフォー女性が、一人で、時には他に誰もいないキャンプ場において、一夜を過ごすので、何らかの危険を感じているんじゃないかと思いきや、本人はそれほど気にしている様子はない。熊出没地帯もあるので、それは気をつけているようなのだが、山賊的な輩に襲われることを、警戒している節はなさそう。
何にも怖いものは(熊以外)なさそうなのだが、一度だけ、本当に恐ろしい目にあう。「躁鬱病を発症してはや九年」で、幻聴は怖くないという絲山であるが、とある河原でキャンプしていた夜、様々な幻聴と、何かしらの気配を「びんびん感じ」車へと逃げ出すのだ。その場所は、とある航空機事故の現場に近く、そういう予備知識があったからなのか知らないが、そりゃあんた、そんなとこで夜に一人で滞在していたら、何か起きるやろう、と私は思った。この箇所だけちょっとした怪談になっていて、怖い話大会にでも出たら、充分通用するものになっている。
本書は、キャンプ時の、ちょっとした心構えや、役に立つ情報が得られるとともに、食事前に読むと、いい具合に、食欲が出てくるかもしれません。また、役所などの公共施設で、長時間の待機が予想される時、(いらいらした状態で)暇を潰さなければならない場合などに、携行するには最適な一冊といえるでしょう。
(成城比丘太郎)
(編者注)内容的には、椎名誠の「怪しい探検隊」シリーズの女性・一人版といったところか。ちなみに怪しい探検隊を読むなら、一冊目の「わしらは怪しい探険隊 (Ama)」に限る。それ以降は実はそれほど名著ではないが、最初の一冊は間違いなく、エッセイ至上最高の作品であり、昭和軽薄体の完成形でもある。