- 孤独な男の不屈の闘志
- 前半はややスローな展開
- ジョーと力石の魂の交流に感動
- オススメ度:★★★★★
(あらまし)私以上のお年の読者の方には説明不要と思うが、天涯孤独の流れ者、不良少年ジョーが汚いドヤ街で、夢破れた元ボクサーの丹下段平と出会い、やがてボクシングにのめり込む。20巻の復刻版だとちょうど8巻の辺りで、「力石編(原作では第1部と表記)」が終わる。物語の触りはむしろジョーの悪党ぶりに辟易するし、少年院編も後の展開よりは退屈だ。だが、実際にジョーがプロデビューした辺りから物語は急加速する。
とにかく、ジョーは肉体的には決して打たれ強くないので、本当によくダウンする。その度に丹下段平を始め「立て!」と絶叫する。そしてジョーは薄笑いを浮かべながら懸命に立ち上がる。彼は戦いをやめない。酷い目にもあう。しかし、自分を信じ、孤独を押さえ込み、ひたすらに立ち上がって戦うのだ。
思えばその単純な繰り返しなのだが、余りにも何も持っていないジョーと丹下段平が、ボクシングを通じて、何かを得つつ、そして何故か更に不幸に陥っていく。まるで悪魔に魅入られたよう。ジョーに思いを寄せる少女も現れるが、力石編ではそれすらも歯牙にもかけない。
立て! そして、戦え!
全ての男に響くこの力強いメッセージ。俺たちはリングを会社に変え、今日も血みどろの戦いを演じている。血と汗にまみれ、全身ボロボロになっても拳を振るうことしかできない……血反吐を吐いても死ぬまで立ち上がるしかないと、ジョーは語りかけてくる。
それが結実するのが力石との戦い。結果は明白な事実だが、もし小学生が読んでいたら可哀想なので書かない。このシーンはぜひ、予備知識無しに読むべきだ。
そして、ジョーは力石の正体を知る。それは唯一の魂の友だったのだ。ヌルい毎日を生きていては分からない究極の到達点。しかし、同時に背負わされる十字架。ここで完結しても構わないほどの出色の出来だ。本当によくできている。
ちなみに、ちばてつやの描く女性はカワイイ。葉子も紀子も、魅力的だ。
未読の方は少ないと思うが、名作の名に恥じない繊細かつダイナミックな物語をぜひ。ホラー要素としては、その辺のスプラッター漫画より強烈な肉体的ダメージの様子が流麗なタッチで描かれる。
蛇足・ボクシング漫画もそれなりに読んだが、これに匹敵する感動を得られるのは「はじめの一歩」が日本チャンピオンになるまでだ。その後は色々あるのだが……「リングにかけろ」や「太郎」「1ポンドの福音」はそこまでではなかった。良ければそちらもどうぞ。ジョーよりずっと明るい作風だ。
(きうら)