3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★★★

茄子 スーツケースの渡り鳥(黒田硫黄:原作/高坂希太郎:監督) ~無限の住人との比較・感想

投稿日:2017年4月30日 更新日:


  • 茄子 アンダルシアの夏の続編映画
  • 原作の良さをさらに伸長
  • 経済と芸術について深く考えさせられる
  • おススメ度:★★★★✩

前日の「映画 無限の住人」について、改めて思い返してみたが、やはり、三池監督(あるいは脚本家大石氏)は、大事なところを見誤った。原作が長大なのだから、物語を剪定するのは必須の作業だ。ただ、その作業に情熱がない。あるいは、全く心が籠っていない。

「別の木でこう剪定したら上手くいったから、この木でも同じ方法でいいよな?」という慢心が見て取れる。その「手抜き」は何の為だ。体調が悪かったのか? やる気がなかったのか? ジャニーズに気を使ったのか? あるいは金を得て生活がしたかったのか? それとも必要な予算がなかったのか? 何か理由を言って見るか?

プロだろ、言い訳はしないよな。

一番許せないのは「無限の住人」が死にかけるということだ。原作では、主人公の万次が本当に死にかけるのは2回だけ。その一つは映画でも取り上げられているが、もう一方は再現はされていない。最初の「死」が禍根を残したという描写もないのだ。一回でも通読すればわかる。万次が「死ぬ」のは異常なことで、逆に死ななない事が前提でプロットが積み上げられていくのだ。主人公が死なないからこそ成立する物語だ。

とにかく、万次が「死ぬ」のは前提として間違っているのだ。一応、映画でもそれらしい理由を付けて「映画的スペクタクル」を求めているが、失敗だろ。失敗してるだろ。閑馬永空のエピソードまで読んでそのあとは「オタク臭い漫画だからどうでもいい。俺がやったほうがうける」と思ったんだろ。ラストのセリフは何だ。あんな受け狙いの安っぽいセリフで締めくくって満足か? 自分で1800円の金を払って観る気になるのか?

「無限の住人」というタイトルの主人公が無限に住まなくてどうする。原作のラストを読んだか? 原作ではちゃんと「無限の住人」として、辛くも美しい結末を迎えているのだ。もう一度言う。映画のスタッフは、誰か一人でも、原作のラストを読んだのか?

ここでようやく「茄子 スーツケースの渡り鳥」の話題に入る。これの原作は非常に短い。週刊漫画の連載で言えばほぼ一回分(24P)に過ぎない。だから、映画版のヒロインは出てこないし、おそらくパンターニ(Wiki)をモデルとした冒頭のシーンもない。だが、これは必要だから足したと分かる。この追加のおかげで、粋な漫画が、粋な映画として再誕できた。ただ、ヒロインの弟はさすがに蛇足に思えた。だから★は一つ減らした。

原作と比べてみればわかるが、ヒロインはともかく、ザンコーニがらみのエピソードは、非常に分かりやすく原作から翻案されている。レースのシーンも、ロードバイク好きでも納得できるクオリティだ。実写とアニメは違うと言い訳するかもしれないが、これが正しい「映画化」の例だ。

原作者のアイデアに映画監督が更に面白いアイデアを追加する。原作者と監督が笑顔で議論している光景が見に浮かぶ。「無限の住人」にはそれがない。原作者は「まあ、こんなもんさ」という苦笑いを、監督は「最低限の仕事はしましたよ」という職業的微笑を、木村拓哉は「私は精一杯やりました。それはわかるでしょう」という怒りを込めた自戒と弁解をしているシーンが目に浮かぶ。

こんな企画、誰かが止めれば良かったのだ。

でも、三池監督、
仕事は楽しいかね?(過去記事)」。人間だから生きていくために仕事は必要だ。映画という仕事もあるだろう。ただ、三池監督は本当に映画を撮りたいのか? そこがどうしても信じられない。
この仕事を見る限り監督の仕事は「役所であちこちから回ってくる書類に中身を見ずにハンコを押している上司」そのものだよ。真実そう思う。俺が現場の雑用でも同じことを言ってやる。それでクビにするならするがいい。そこで、雑用の私も上役の器量を図るのさ。

世の中には、担ぐ価値のある神輿と、その価値のない神輿がある。
残念ながら。

(きうら)

茄子3巻【電子書籍】[ 黒田硫黄 ]


-★★★★★
-, , , ,

執筆者:

関連記事

『ゆるキャン△』がパワーアップしてかえってきた

『ゆるキャン△(二期)』が 最高で、素晴らしすぎて もう死にそう ほっこり度:★★★★★ 【最新11巻の感想】 コミック『ゆるキャン△』の最新11巻をよみました。静岡県の大井川周辺での、三人の観光キャ …

ザ・スタンド(5) (スティーヴン・キング/文春文庫) ~あらすじとおススメ度

大長編パンデミック系ホラーの完結編 善と悪が交錯するダイナミックな展開 不思議な後味と感動 おススメ度:★★★★★ 第5巻は、強力なインフルエンザ・ウイルス<スーパーフルー>が実験施設から漏洩したこと …

伊達政宗 (1) 朝明けの巻 (山岡荘八/講談社)

高名な伊達政宗の誕生から最初の挫折まで 読みやすく、かつ、中身が深い 読み物として単純に面白い おススメ度:★★★★★ まず、言い訳がある。言い訳なので、回りくどいのが嫌な方はこの段落は飛ばして欲しい …

十六人谷(まんが日本昔ばなしより/富山の伝説<24>より)~話の全容(ネタバレ)と感想

約10分の強烈な昔ばなし怪談 絵も話も怖いが「間」が最高に恐ろしい 公式には見られないので詳しめのあらすじ付 おススメ度:★★★★★ はじめに まず最初に断っておきたいのだが、この作品を現在、正式なル …

模倣犯 (宮部みゆき/新潮文庫)

圧倒的な「読ませる力」を持った小説 連続誘拐事件をテーマにした宮部みゆき最大級の力作 深遠なテーマと深い感動を保証する おススメ度:★★★★★ 「なんだこれは?」と、第1部の途中で感じた。「これはヤバ …

アーカイブ