- 死の香り漂う8つの短篇
- 靄がかかったような景色が広がる
- 正統派の怪談という気もする
- オススメ度:★★★☆☆
冥という漢字を調べてみると「暗い」という意味以外に、奥深い、あの世という意味もあるようだ。当たり前だが、どのお話ももれなく暗いのは確か。それは作中で何らかの死が描かれてる為だろう。ただ、絵画で例えれば濃淡があり、本当に真っ暗な話から、ある程度、生命を感じるエピソードまで様々。また、どれも話としてはオチがきちんとつくが、後の解釈は読者に任せる的な終わり方が多い。手抜きという訳ではなく「曖昧さ」が本書の特徴のような気がする。
著者の本を一冊でも読まれた方ならおなじみの文体で、小難しいけど読みやすい、硬いのに妙に柔らかい、そんな感じ。どの話もほぼ一人称で語られるから、余計にぼやけて見える。ただ、この暗さは心地よくもあるので、ここまでで興味が湧いた方は下の概略は読まずに手に取って頂いた方がいいかもしれない。
率直に怖い話もあるので、怪談好きの方なら楽しめるのでは。反対に謎解き要素重視の方にはオススメしない。では、以下、各話ごとに一言。
「庭のある家」久しぶり訪ねた知人に留守番を頼まれる主人公、ただし、ただの留守番ではなく、死にたての知人の妹と一緒。トップに来るだけあって、中々ゾッとさせてくれる一篇。この主人公境遇は、とにかく怖いというより、どうにも嫌だ。
「冬」幼き日の記憶の中の少女を巡る直球の怪談。この本の中では鋭いオチで、明確に「来る」ものがある。少年が旧家で見ていたものとは。理屈を超えた何かがやってくる。話も上品で、一番好きなエピソードかも知れない。
「凮の橋」かぜのはし、と読むこのお話も、博物館勤務の女性が追憶を辿る内容。わざわざ凮としたのは、最後まで読めば何となく分かる。タイトルは爽やかだが、「冬」とは違い中身は結構エグい話で、どちらかと言えば胸が悪くなる系だ。嫌さ加減が生々しい。
「遠野物語より」これは怪談っぽい昔語りを現在の事として語られるお話。山男・山女にまつわる話で、民俗学的見地から、怖いとは何かという鼎談が繰り広げられる。まあ怖くは無いが、何となく著者の言いたいことはわかる気がする。
「柿」は意識して気味が悪く書かれているので、最初から最後まで気持ち悪い。近親者の業に祟られ、主人公が狂わされていく過程に見える。柿が食べられなくなるほどでは無いが、あまり柿を食べながら読みたくは無い。怪談要素も強い。
「空き地のおんな」全話通して一番現代的で活発な印象を受ける。ダメ男と腐れ縁で付き合っている女性の痴話喧嘩から始まる愚痴のような心象風景。ちょっとユーモラスだが、一番、ストレートに死が登場する。オチ付近のあるキャラはあまり意味が分からないな……あと女性が主役で出てくると、この作品に限らず、どうも「痴情の縺れ」を描いた話になるな。
「予感」は廃屋に住んでいるという男の物悲しい道理が滔々と語られる。住んでいるのに、廃屋とは? が、テーマ。京極夏彦らしい「話の初めに持ってくる理屈」が展開され、本当ならこの後に長編が用意されているのかも、と勘繰った。もちろん続きはないが、乾いた寂しいおはなしである。
「先輩の話」ラストはメタフィクション的な内容で幕を閉じる。エピローグ的なイメージで、あまり明確に内容を説明できない。気持ちよくフェードアウトしていく感じ。こう感想を列挙すると、最初の方が面白い気がする。
アクが強いとは言わないが、京極夏彦は人を選ぶ作家なので、姑獲鳥の夏や巷説百物語、嗤う伊右衛門などを読んで、馴染みのある方なら、良い読み物。私はファンなので、同じ趣味の方には「たまーに読みたくなる京極節」で通じると思う。そうで無い方には微妙かなぁ。
(きうら)