- リングの完結編と銘打たれた短編集
- 著者による二次創作レベル
- けっきょく何なんだというおはなし
- おススメ度:★☆☆☆☆
予想はしていたがそれを上回るくだらなさ。だいぶハードルを下げたつもりだが、それでもダメだった。とはいえ、リアルタイムに「リング」を読んで衝撃を受け、以下「らせん」「ループ」と読み、最近「エス(これも酷い)」も読んだ私は、完結編と言われると決着をつけざると得ない気持ちになった。しかし、内容はひたすら山村貞子というキャラクターを薄く薄く引き伸ばしたような内容で見るべきものはない。そういう意味では一冊目の「リング」さえあればいい。その「リング」も類書が蔓延したので、今や、相対的に価値は低いだろう。
本当に著者は胸を張ってこの小説を書いたのか? これは長編ではなく、3つの連作短・中編から構成されている。
・空に浮かぶ棺
リングに直結する後日譚で、新しい貞子誕生が生々しく描かれる。そこはかとなく猥雑な感じはするが、怖くはない。前に紹介した漫画「恐怖・地獄少女」を連想させられる内容だが「貞子が生まれます」ただ、それだけでこれ以上書くことは無い。思うに著者は山村貞子の映画的インパクトを小説的なインパクトと取り違えているのではないか。ただ、貞子が出てくれば、読者は驚くと思っているのだろうか。内面のない貞子は怖くもなんともない。一種の出来の悪いファンタジー・ホラーである。
・レモンハート
タイトルから嫌な予感はしていた。レモンハートはないだろう、と。真実その通りで、前の章で生まれた山村貞子が劇団員としてデビューするというのが核のストーリーで、その貞子に懸想するスタッフの男が主人公。意味不明な貞子の行動から、不気味さを醸し出そうとしていると思うのだが、非常に軽い怪奇譚でしかなく、しかも落ちがない。あと、やたらと設定が古い(カセットテープが最新設備!)ので、平成生まれの人が読んでもまったくピンと来ないだろう。昭和生まれの私もまったくピンとこなかったが。中途半端にエロい山村貞子に振り回される男のはなし。読まなくてもよい。
・バースディ
ちょっと待て。この設定は「ループ」で読んだ、というかそのまんま「ループ」のネタを捻じ曲げて話を閉じただけ。中途半端な科学知識が盛り込まれているので、余計に古さを感じる。特に、作中、人間をスキャンしてバーチャルな世界に再現する、というシーンがあるのだが、その方法がニュートリノを使って人体を感情までスキャンするとあるが、その後、溶けて死んでいる。いやいや、スキャンの過程で対象物を破壊してしまったらそれはもうスキャンとは呼べないのではないか。その辺のお花畑SFファンタジー設定が気になって、仮想世界との恋という(これもありふれている)物語に入り込めない。ラストも何が言いたいのか分からない。というよりも、読み取る気が起きない。
以上、久しぶりに酷い本を読んだ。文体そのものは崩壊していないが、小説を書く行為そのものが崩壊している。大人の事情は分からないでもないが、貞子を水で割りすぎたカルピスのようにしてしまうのは良くない。カルピスから想起したが、作者はどうも精子というものに取りつかれているように思う。テーマが誕生にあるにもかかわらず、常に精子なのである。何かその辺に暗いこだわりがありそうなのだが、それもわざわざ想起したいようなものでもない。
結局、「リング」はその本の中身の通り自己増殖を繰り返したが、結局、この「バースディ」の内容と皮肉にも同期して「癌細胞化」してしまい、単一化したがために滅んでしまった。この本は、人間が多様性を失うと滅びると語っているが、それは自著に対する壮大な皮肉なのではないかと邪推してしまった。ほんとは分かっててこんな本を無理やり書いたんじゃないですか、鈴木さん……。
というわけで、まったくお勧めしないが、腐っても完結編。自分の中にまだ「リング」の余韻が残っているという方は、最悪の結果を想定しつつ、読んでみてもいいかもしれない。
余談だが、書評サイトとはいえ、こんなに本を勧めなくてもいいものか。もっと違う煽りようもあるとは思うが、それすら断念した。
リングはもうだめだ。
(きうら)