3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★★☆ 読書メモ

悪魔と裏切者(山崎正一、串田孫一/ちくま学芸文庫)~読書メモ(56)

投稿日:2020年2月7日 更新日:

  • 「伝説のケンカ」
  • ルソーとヒュームのどちらに共感するか
  • 笑えます
  • オモシロ度:★★★★☆

さて、先日、イギリスはEUから離脱した(らしい)。とはいえ、移行期間はまだあるし、その期間が延長されないとはいえないし、期限が終了して何年かしてまたEUに戻ってこないとも限らない。まあ、個人的に直接的な関係はないのでどうでもいいんだけど、そのニュースをちょっと見ていて、この本のことを思い出した。

本書の内容としては、「十八世紀の大思想家による伝説のケンカ」を、ふたりの往復書簡をもとに、その「ケンカ」の内容を見ていく。まあ、このケンカはルソーの人格的問題によるところが大きいと思う。イギリス側のヒュームではなくて、大陸からきたルソーからふっかけたと思われるので、ルソー個人の問題なのだろう。でも、ルソーの言い分も理解できる現代人たる自分もいる。

「狂気」のルソーと、「善良な悪」のヒュームとの、ちょっとした(でもルソーにとっては重要な)行き違いによる、仲違いのエピソード。大陸からイギリスへと逃れてきたルソーは、恩人であるヒュームに被害妄想的な悪意をかぎとる。穏和で理性的であろうとするヒュームには、ルソーのその「良心」に訴えかける「狂気」の言い分がわからない。そういうところから起こった、笑える悲劇かもしれない。

ルソーがヒュームに、「包み隠さず」にものごとを述べることを望むことから起こった「ケンカ」です。そしてその書簡を公刊したヒューム。だからこそ、こうして現在の読者も客観的(第三者的)に楽しめるわけです。ルソーの「包み隠さず明るみに出す」という態度は、現在ではふつうにみられるとしたら、ルソーのこだわったものというのは現在ではふつうに通用するかもしれません。そういった傾向は、現在のSNSとかにも見られるんだけども、まあ個人が楽しめばそういった自分語り(?)も大いに結構なのでしょう。私も、もうしばらくこの個人語りブログを続けるつもりです。しかし個人的に気になるのは、そういった他人の自分語り的半生を募集して、なにか自費出版的なものをもちかける勢力がいることか。あくまで個人的には、政治家でもない限り、人生に関わる自らの重大な個人情報を、商魂たくましい赤の他人にあずけるのには躊躇ってしまうんだが。

さて、話が変な方向にいってしまいそうですが、結論を言うと、面白く読める本。こういう本が、昭和二十四年に出版されていたというのがこれまたおもしろい。イギリス離脱問題とはまったく関係ないですけど。

(成城比丘太郎)


-★★★★☆, 読書メモ
-, , , , ,

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

ザ・スタンド(1) (スティーヴン・キング/文春文庫) ~あらすじとおススメ度

強力なインフルエンザの蔓延を描くパンデミック系 様々な登場人物が入り乱れる群像劇 全五巻中の一巻。導入は入り込み辛いが、この先は面白い おススメ度:★★★★☆ 強力なインフルエンザ・ウイルス<スーパー …

拝み屋郷内 花嫁の家拝み屋(郷内心瞳/MF文庫ダ・ヴィンチ)

「拝み屋」を営む著者の実話怪談集 魅力的な登場人物と秀逸なストーリー 単なる実話系会談集の枠を超えた傑作 おススメ度:★★★★☆ 憑き物落としや安全祈願などを生業とする拝み屋を営む著者が、自らの奇怪な …

エンドレスエイトの驚愕(三浦俊彦/春秋社)

「ハルヒ@人間原理を考える」 「エンドレスエイト」の解釈可能性を芸術哲学的に、分析哲学的に探る 後半の記事は、2019年冬アニメの感想まとめです おススメ度:★★★★☆(ハルヒが好きなら) 【はじめに …

千霊一霊物語(アレクサンドル・デュマ、前山悠〔訳〕/光文社古典新訳文庫)

「語り手」デュマによる「枠物語」 殺人事件から始まる怪奇譚の披露 まさに19世紀オカルティズムの潮流 おススメ度:★★★★☆ 【あらすじ】 時は19世紀フランス。語り手のデュマは20代の劇作家。彼はあ …

Q&A(恩田陸/幻冬社)

タイトル通り「質問」と「答え」だけで構成される小説 正体不明の大惨事が多数の視点から描かれる オチは弱いがゾッとする恐怖を味わえる おススメ度:★★★★☆ 作者のデビュー作「六番目の小夜子」に続いての …

アーカイブ