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★★★★☆

ずっとお城で暮らしてる(シャーリイ・ジャクスン〔著〕、市田泉〔訳〕/創元推理文庫)

投稿日:2018年1月27日 更新日:

  • 殺人事件のあった屋敷に暮らしてます
  • 周りの人の悪意をひしひしと感じます
  • 閉ざされた世界で自足的に生きていきます
  • おススメ度:★★★★☆

父:娘よ、シャーリイ・ジャクスンの『丘の屋敷』はもう読んだかい?
娘:うん読んだよ、パパ。最後はちょっとかわいそうな感じね。
父:そうだねぇ、ちょっと詳しくは忘れてしまったけど、怪奇現象みたいなのが、主人公の追いつめられていく様とあわさって、なんともいえない気分だったね。
娘:うん、怖いというよりそんなかんじかなぁ。で、次が読みたいんだけど。
父:じゃあ次はこの『ずっとお城で暮らしてる』を読むといいよ。
娘:それは怖い?
父:うーん、怖いというより、なんか厭なかんじはするかな。
娘:厭な感じかぁ。で、どんな話なの?
父:とあるところに、ブラックウッド家という屋敷があって、そこにはメアリって娘と、姉のコンスタンス、それにふたりの伯父さんであるジュリアンが住んでいたんだ。そこでは過去に、彼女ら以外の家族全員が死んだ、毒殺事件があったんだ。そのときに犯人と疑われたのが姉のコンスタンスで、結局真相は分からないまま、残されたブラックウッド家の三人はそこでひっそりと暮らすことになるんだ。

娘:それはまだ出だしとしての説明ね?
父:うんそうだよ。家に閉じこもってしまったコンスタンスと、書きものをしている伯父さんを家において、メアリが村に出て行っては買い物をしている、そういう生活かな。
娘:仕事とかお金をどうしてるのかな。
父:ブラックウッド家は一応名家っぽくて、資産はあるようだよ。
娘:じゃあ、大丈夫か。パパみたいに、たまにしか働かない人には、そこは楽園ね。
父:(無言)
娘:そこで黙らくてもいいでしょ、ハートが弱いなぁ。どうせこの会話自体、誰かさんの妄想なんだから。
父:こらこら、メタ的な発言はやめなさい。不必要なメタ言及は、作品自体の品を貶めかねないんだよ。まあ、おぼえたてのテクニックは使いたくなるもんだからいいけどね。それにしても、こういうメタ発言を現実にすると、なんだかまぬけだね。なんらかの作品内でこういうことを言っても、その人たちは創造主のことは分からないわけだし、そうすると、現実での私の発言と、作品内での私の発言は、同じ存在の仕方というか、語りの次元においては同じ水準におとしめられることになるのかなぁ。今私たちはこうして、自分が現実だと思って話してるけど、それらが誰かの代弁かもしれないわけだし。いったい自分の発言は妄想なんだろうか、それともそうじゃないのか、それを証明することはできないわけで……(その後、延々としゃべり出す)。
娘:(何言ってんだ、こいつ)
父:……そもそも、なんでも疑いだせばきりがないわけで、そうするとどこかでそうした思考を切断するべきか、はたまたそういうものだと思ってしまうか。あるいは、現実と妄想とが漸近することによって得られる地点でもあるのだろうか。
娘:パパ、脱線してきてるよ。
父:うんそうなんだけど、実はこういったことを、この本を読む時に考えてしまうんだ。
娘:よく分からないけど、決して脱線ではないということね。

父:じゃあ元に戻るけど、村に買い物とかに行くメアリは、その度に村人たちの彼女への悪意のようなものや、敵意のようなものを、直接的間接的に受けるんだ。殺人事件が起ったブラックウッド家への、村人たちの悪意が…
娘:悪意…?
父:ああ、悪意の意味が分からないの?
娘:いやいや、それくらい分かるわよ。あれでしょ、「ある主体が、何かの対象に対して、悪い感情や見解をもつこと」のことでしょ。そうじゃなくて、なんで村人が悪意を持っているの、ってきいてんだよ!?
父:ああそういうことね。まあ、現実の殺人事件とかでもあると思うけど、ある小共同体内で起こった事件というのは、やっぱり忌まわしいものだからね。そういったものは排除されなきゃならないのかな。この作品の場合は、一時的に容疑者とされた姉がその家に残っているわけだし。
娘:ああ、陰湿なかんじのやつね。
父:うんまあそうかな。えーと、それで、そういった村人の悪意が、後になってとんでもない事態を引き起こすんだけど、それは言わない方がいいね。
娘:うん、読んだ時の楽しみにしとく。それにしても、いくら殺人事件が起こったといっても、村の人たちはひどいなぁ、何となく理解できない。でもパパが言うように、これがムラ社会のもってる閉鎖性が醸成する悪意の自己増殖ってやつかしら。メアリって娘はよく分からないけど、たぶん感受性の強そうな娘だから、きっとつらいだろうなぁ。
父:それがね、メアリは、そうした悪意とかを防ぐために、自分の敷地に色んなものをお守りとして、配置するんだよ。それにいろんな取り決めとかをしたりね。自分ルールってやつ。そうしておけば、そうした悪いこころに冒されないようにかな。
娘:あっ、なんとなく分かる。あたしも寝るときとかに、ベッドの側になんか変なものが近付かないように、ぬいぐるみとかスリッパとかを置いたり、ドアの取っ手にほむらちゃんのキーホルダーを掛けたり、窓のところにアルベルトゥス・マグヌスの肖像画とかを置いたりしてるもん。やっぱ、それってなんらかの呪的行為なのかなぁ。
父:う…うん。
娘:(突っこめよ)

父:そうして、そこへチャールズっていう二人の従兄にあたる人物が現れて、その楽園のような世界が崩れはじめるのを、メアリはおぼえるんだ。でも、このチャールズってのが、なんだか現実的な人物におもえるんだ。基本メアリの視点で書かれているこの小説に、チャールズという異物が入りこんで、彼女の気持ちをざわつかせるんだ。
娘:そのチャールズって悪者なの?
父:いや、彼は粗暴なところはあるようだけど、どうだろうね。チャールズが本当に害意があるのかは分らない。メアリは彼が招かれざる客だとは思ってるようだね。そして、メアリはチャールズに陰に陽に敵意(殺意)をぶつけるようになる、そのメアリの独白が結構ヒリヒリするんだ。一方、チャールズの方もメアリに敵意をぶつけるんだけど、こう思うのはメアリの被害妄想のせいなのかもしれないと、読んでいて思うんだ。でも、ジュリアン伯父さんもだんだん言うことがおかしくなって、この辺りのかみ合わない感じがちょっと怖いけど面白いね。
娘:今のあたしたちみたいね。
父:えっ?
娘:だから、さっきからあたしが小ボケをはさんだのに、パパは全く突っこんでくれないじゃない。
父:ああ、そういうこと。たしかに何言ってるんだとは思ってたけど。
娘:まあね、あたしも自分で変なこと言ってるなとは思った。
父:じゃあ、続きに戻るけど、えっと、どこまで話したっけ。
娘:チャールズが来てからのことでしょ。

父:そうそうそれで、その従兄が来てから起こることについては、もう話さない方がいいね。その方が面白く読めるだろうし、私もちょっと疲れてきたよ。
娘:じゃあ、あとは読んでみるね。でも、メアリとコンスタンスのそのあとがちょっと気になるかな。バッドエンドとかだと、読み終わった後になんかいやだなぁって思うし。
父:じゃあちょっとだけ教えるけど、二人は、とある出来事の後に、二人して自足的な生活を送ることになるんだ。家に壁をつくって外界を侵入させずに、閉じこもって暮らすんだね。
娘:もう誰も家に来ないの?
父:いやそうじゃないけど、二人はもう誰とも会わずに暮らすことを決めるんだ。いや決めるというか、そういう状況に追い込まれたというか。とにかく、朽ちていく屋敷とともに、二人もフェードアウトしていく感じかな。
娘:ふーん、でもなんで周りの人は無理にでも入っていかないのかなぁ。別に何らかの形で保護するという名目で、措置的な介入はできなかったのかしら。
父:うーんそうだね、そういうこともできなくはないけど、それじゃ単なる現実劇としての幕引きになりそうだしね。とにかくメアリと外界とは、最後まで交わることのできない膜みたいなものがあって、それは透明な壁という感じかな。だから、その壁が、メアリの皮膚感覚として、読んでる人を落ち着かなくさせるのかもね。
娘:皮膚感覚?
父:うーん、皮膚に触るとそれがなにか体感できるように、メアリが(妄想であっても)感じている、そういう感覚を共有できるかどうか、そういうところが、この本を自分に引き寄せて読めるかどうかの分水嶺だね。
娘役:なるほど(分からん)。まあ、まずは読めそして感じろ、ってことだね。メアリになりきれるかどうか分らないけど、また読んでみる。パパ、ありがと。じゃあ時間ね、これから別シフトでの出勤だから。今日はオプションとして、変なボケと軽い罵倒を入れてみたけどどうだった?
父役:うん、ボケはよく分からなかったけど、罵りはもう少しあってもいかな。っていうか、もう時間か。
娘役:そうよ、料金はいつものようにお願いね。またのご利用をお願いしてるわ。それじゃあ、またね。

(了)

(成城比丘太郎)


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