★★★☆☆

ステーシーズ―少女再殺全談 (大槻ケンヂ/角川文庫)

投稿日:2018年12月18日 更新日:

  • スプラッタ系ゾンビもの
  • グロくはあるが余り直接的エロ要素は無い
  • ちょっと変わった少女偏愛小説
  • おススメ度:★★★☆☆

またグロい小説を読んでしまった。副題に少女再殺全談とあるのである程度、覚悟はしていたが、少女の首が飛び、腕はちぎれ、血しぶき上がる系である。ただ、エログロ(グロエロ)と切り捨ててしまうには惜しい変な美しさがある。

(概要)ある日を境に15歳から17歳の少女が突如、ゾンビ化する事態が発生した。ゾンビ化(ステーシー)には理由は無いが予兆があり、発症前にはニアデスハピネスという多幸状態に陥る。ただ、ゾンビ化すると国が指定した特殊部隊が抹殺しにくる。死ぬ前に「再殺権」という自分を殺す権利を誰かに与えられるが、まず行使する前に特殊部隊がくる。ゾンビ化すると、人肉を好み、噛まれれば死ぬ。意識はなく、肉人形となる。ちなみに体内に致死性の毒があって、ステーシーを犯すことはできない。

この設定で読もう思った方、素直に読んで下さい。少女趣味、暴力、人体破損、男性同棲愛、不条理ホラーなどを好む方は結構満足できるのでは。もし、この設定に嫌悪感が湧くなら、読み切るにはかなりハードルが上がる。

ストーリーはまあシンプルで、ゾンビ化する前の恋人の描写や、ステーシーを狩りまくる特殊部隊の話が中心となっている。著者の趣味が多分に反映されていて、プロレス技でゾンビ少女を破壊したり、過去のロックの名曲が盛り込まれていたり、古い時代のギャグが盛り込まれたりと、癖が強い。

ありていに言えば、ぐちゃぐちゃの人体(少女)破壊シーンがかなりのページ数を持って詳細に描かれているので「オエー」となる可能性も高い。多分、ホラー系を読み慣れていない方、サブカルチャー的(死語?)なものに興味がない方などは厳しいはず。

著者の大槻ケンヂは、ご存知の通り歌手でもあるが、歌詞・著書ともにこれ系の確固たる世界観を持っている。信仰宗教オモイデ教やグミ・チョコレート・パインでも感じたが、少女に対して独特のコンプレックスと偏見があると思う。

多分、多分であるが、著者は少女に対して、はじめ絶対的な価値観を持っていた。それは女神信仰に近いものがあったはず。神格化され、思想の奥深くに根付いている。ただ、ある時、少女の実態を知って驚愕あるいは失望したのだろう。見た目は美しいが、中身が穢れた自分たち男どもとあまり変わらないという現実に打ちのめされた。しかし、自分の中では依然として、理想の少女像が屹立したまま。

この相克が、本著などの執筆の原動力となっているのではないか。少女の徹底した人体破壊は、自らの愛を裏切った現実の少女への復讐なのだ。同時に、それは真の少女とはこういうものだという主張が感じられる。実は、物語中盤から上記の設定の一部が変更され、あらぬ方向へ話は進んでいくのだが、その過程が、まさに破壊と再生である。著者は一度、醜い少女をぶち壊し、美しい少女への再構築を図ったのであろう。

その証拠に、この本に描かれる少女は、表面的な破壊は行われても、内面的な破壊はされず、むしろ、内部を壊されるのは男のほうだ。性的な凌辱がないのもそのためだろう。歪んだ愛と言えばそれまでだが、この本のゾンビ少女が妙に神々しいイメージに包まれるのは、そのせいかもしれない。まあ、その少女像も偏見に満ちたものなので、繰り返しになるが、くれぐれも残酷描写に耐性がない方、こういう洒落を好まない方は注意されたし。

悪趣味と言えばそれまで。しかし、その中に、何らかの信念があるかどうかが、私の好悪の判断基準だ。この本にはある。それが何かは読者によって変わるとは思うが、あるシーンなどは基督の再誕のようでもある。

タイトルに少女再殺「全談」とあるのは、本作を補完する二つの短編が収められているため。どちらも本編を理解するのに重要なピースとなっており、おまけ以上の価値がある。けっこう楽しいので、本編を読み終わったら、そのまま短編を読まれることをおススメしたい。

総じて、悪ノリ気味ではあるものの、ホラー好きの好奇心を満たしてくれる良著。時々、行き過ぎるので★3としたが、なかなかサイトの主旨にあった一冊である。

(補足というか蛇足)
個人的には、途中で語られる思想(我々は細分化されれば同じもの(素粒子?)でできており、くっついたり離れたりするが消滅しない)には、最近同じことを考えたので、人間はやはり共通した生き物だと思った。これは生死観の問題であろう。

全然関係ないが、学校ではいま、人間は死んだらどうなると教えているのだろう? 天国と地獄があって……と、説明されているのか、生まれ変わって何々になると説明されているのか、単純に物質の消滅とシナプスの伝達の問題を教えているのだろうか? はたまた何も触れないのであろうか。

けっこう重要な問題だと思うが、死は単純に悲しくて悼むもの、命は尊いものという価値観で走り切っているのだろうか。それは確かに無難だ。

一昔前に育てた豚を調理する、などという教育が話題になったが、それには反対だ。豚が可哀そうだからではない。生徒がその選択を選べないということに疑問を感じる。生徒に食べるかどうかを選ばせるべきだったのだ。選ぶだけの知見がないなら、そんな教育は単なる暴走に過ぎない。生命の残酷さ(に見せかけた尊さ)を押し売りする姿勢は吐き気がする。そうかといって、ディズニー的に肉食獣と草食獣が仲良く話しているフィクションが高く売れる風潮も嫌いだ。

どう考えて、どう生きるかは自由だ。私は、無から生じて無に還るだけとは思うが、確かに救われない。なので、本書のような優しいフィクションが必要なのかもしれない。

死んだらゾンビ、いいではないか。語源について作中、ロメロには触れず「ハイチの言葉で」と繰り返されているが、これも一種の救済なのかも。

強引に断言すれば、理想を失った男どもの魂の救済がテーマの小説だ。

(きうら)


-★★★☆☆
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