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★★★☆☆

ホーンテッド・キャンパス(櫛木理于/角川ホラー文庫)

投稿日:2019年3月4日 更新日:

  • ラブコメ+軽いオカルト
  • 衒学趣味的要素もある
  • こういう軽さも必要かも知れない
  • おススメ度:★★★☆☆
本作はいわゆるライトノベルに属する作品である。大学のオカルト部が舞台。いかにもな気弱だが霊感のあるイケメンの主人公、少し謎めいたヒロイン(美少女)、変人(だが美形)のオカルト部の部長、そのいとこの霊感持ちで武闘派という学生(美丈夫)、姉御肌の明るい副部長(美人)がレギュラーメンバー。
構成も非常にベーシックなパターンを踏襲する。先ずは軽い前振り→オカルト部へ依頼人(同じ大学の学生)→怪奇現象の調査→落ちがつくという短編が5つ。全体のテーマは主人公(八神森司)とヒロイン(灘こよみ)の淡い恋模様を描く。
もう、完全無欠の青春(?)小説だろう。私が個人的に分類している「ジャンル小説」でもある。ジャンル小説とは、かくあるべしという設定からはみ出さずに話を構成するタイプの小説で、例えば時代劇もの、素人怪談もの、ハーレム系のラノベなどもそうだろう。良くも悪くも読者の期待通りの展開をする。
今回、普段は敬遠しがちなこの手のホラーを手に取ったのは、角川ホラー文庫の新刊としてかなりの続刊があるので「たぶん、想像してるより面白いんだろう」という不純な動機から。まあしかし、一通り美形で固められた主役陣を見て、ため息をつかなかったと言えば嘘になる。「やれやれ」というのが正直は感想だ。
その割に評価を下げてないのは、自分の感性を疑っているからで、この軽さ、この読みやすさ、ちょっとした知的さのアピール、こういったものを好む人も多いと思ったからだ。私はケーキが嫌いだが、だからと言ってケーキが不要だとは決して思わない。そういう視点で読んでみた。
工夫があるとすれば、怪異のパターンが割と面白いこと、例えば壁に浮かび上がる顔、夢の警告、交霊会、事故物件、ドッペルゲンガーなど。こう書くと単純そうだが「それを分かって」書かれているので、落ちには一工夫ある。まあだいたいは愛憎劇なので、一種、綺堂の捕物帳めいた雰囲気もある。
割と性的な描写もストレートに出てくる。この辺が、作者の個性か。逆に自らの知識を書き連ねるのは、底が見えて嫌だ。この手の手法なら京極夏彦という極端な例を知っているので、どうしても「その程度」と思ってしまうのも仕方ない。
しかし、話は循環するが、京極夏彦の「姑獲鳥の夏」とこの「ホーンテッド・キャンパス」を中高生が読んだと仮定して、どちらが支持を得られるかは明白だ。「姑獲鳥の夏」ほどのグロさは無いし、あれ程ねじくれたキャラも出てこない。長所と短所は紙一重で、この作品がホラー小説大賞の「読者賞」に輝いたということは、つまりそういうことなのだろう。
「何だ、この腰の引けた曖昧な批評は」、と怒られるかも知れないなぁ。でははっきり言おう。
私はこの先、進行するであろう伏線にも主人公たちの恋愛にも興味がない。だから、続きは読まない。陳腐な部分も多いと思う。ただ、本を叩きつけて嫌うようなものでは無い。例えは悪いが、私はディズニーランドにわざわざ行って「ミッキーマウスが嫌いです」と、叫んでいるようなものだ。
青春、淡い恋愛、軽い怪談、タイプの違う美男美女、そういった要素が好みなら、読む価値はあるだろう。主張しない個性といったらいいのか。
もっと端的に言うと、恋愛風味の軽めの怖い話が好きならオススメ。でなければ、わざわざ読まなくても別に損はしない。
補足として、著者の年齢が私と同じくらいなので、本当に今の大学生はこんな感じなのかと思ってしまうところがある。あと登場人物がガンガン酒を飲むのだが、それはいいんだろうか? 明らかに未成年も混じっている。確かに私の大学時代はそうだったが「お酒は二十歳になってから」では無いのか。今の若者は酒を飲まないと聞くし……。
「今の若者は」などと、きうらが言い始めたので、この辺でお開きにします。今日も明日も皆さんが怖い話を楽しめますように。では、ご機嫌よう。
(きうら)


-★★★☆☆
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