- アイデアは最高
- その後は予想通り
- もう一回話をひっくり返してほしい
- おススメ度:★★☆☆☆
私は元になったYouTubeの動画を観ていた。普段はホラーに関する動画は見ないのだが、何かのタイミングで視聴。間取りから殺人事件を推理するという視点が新鮮で最後まで観てしまった(以下参照/観られない場合は削除の可能性あり)。
ただ、このアイデアはこれで完全に終わりだと思っていた。本書を読んで思うのは、その感想の確認だった。
(あらすじ/Amazonの紹介文より転載)
話題騒然!!
2020年、ウェブサイトで166万PVを記録/YouTubeではなんと700万回以上再生!/あの「【不動産ミステリー】変な家」にはさらなる続きがあった!!
謎の空間、二重扉、窓のない子供部屋—-間取りの謎をたどった先に見た、「事実」とは!?知人が購入を検討している都内の中古一軒家。開放的で明るい内装の、ごくありふれた物件に思えたが、間取り図に「謎の空間」が存在していた。
知り合いの設計士にその間取り図を見せると、この家は、そこかしこに「奇妙な違和感」が存在すると言う。
間取りの謎をたどった先に見たものとは……。
不可解な間取りの真相は!? 突如消えた「元住人」は一体何者!? 本書で全ての謎が解き明かされる!
(以下、完全なネタバレあり)
YouTube版が面白かったのは、変なリアリティがあったからだ。私も少し、地域情報誌などに載っている不動産情報を見て、その家を想像するという趣味がある。エア引っ越しとでも言おうか。古いけどやたらと広い家、新しい家だが作りがチープすぎる家、マンションにしては高額すぎる家賃の理由……間取りや立地を見て、そこにある新しい人生を想像するのは趣味としては安価で面白い。
YouTubeで観た動画には、そんな雰囲気が存分に残っていて、たまたま見つけた「変な間取り」から殺人事件にまで想像を膨らませる様子を微笑ましく眺めていた。加工された音声がそれっぽいというのも効果があった。一回観ただけだが、強烈な印象が残るいいコンテンツだった。
その、ノベライズ版である。
古今東西、映画のノベライズが映画(映像)より優れていたという記憶は全くない。その逆は多いが、結局、二次創作に近くなってしまうからだろう。本書もまさにそうだ。
本書の第1章「変な家」がYouTubeでのストーリーに該当する。ここまでは予想通り。
簡単に言えば「嘱託殺人を自分たちの家に住む子供に実行させる家を建てた」という話なのだが、この時点で現代ホラーとしては破綻している。
そんな「家」はない。
まず、子供に殺人をさせる点が不自然だ。いくら泥酔しているとはいえ、大人を何人も殺す技術を持った子供が存在するだろうか。また、現代であればスマホもあれば監視カメラやドラレコもある。直前の足取りを追えないことはほとんどない。「毎年殺人を行う」という設定が昭和ぐらいの感覚で、YouTube版でほのめかされた「子供による殺人のための家」という興味深い設定は、その裏を取れば取るほど、リアリティを失っていく。一切外界に出ない子供にどうやって言語や社会を教えたのだろう? ビタミンDを合成できない状況で健康に育つだろうか。
この小説の欠点は、最初に思いついたアイデアを補強するだけで、それをひっくり返す力が無かったからだ。後半は日本の古い因習や一族の怨念などにも触れられるが、子供だましも甚だしい。こんなC級ホラーのような設定をせっせと考えるくらいなら、実は「最初の推理が間違っていた」というアイデアを入れるべきだった。
「なら、お前が書けよ」と言われそうだから考えてみたが、私だったら、そうだなあ、この物件について調べ始めた人物が次々と怪死するアイデアはどうだろう? そして殺された人間に共通する特殊な条件を考える。それにはある「団体」が関わっていて……とか。現代的ではないだろうか?
2章位までは楽しめると思う。しかし「殺人を行うための家」という理由付けが苦し過ぎて、後半は眠たく読んでいた。結局「呪われた家系」というJホラー特有のありふれたオチで終わる。無難と言えば無難。とはいえ、結末が予想できるサスペンスほど退屈なものはない。やたら都合のいい登場人物の設定にも冷めた。聞いたこともない「呪われた因習」も取ってつけたようで苦しすぎる。
やはりこのアイデアは短編小説程度にまとめるべきだった。それが私の感想である。
とはいえ、事故物件や現代的な間取りをテーマにするのは面白い視点だと思うので、より優れた類書があれば読みたいと思う。本書はそのパイオニアとしては評価したいので★2とした。
悪口ばかり書いたが、ちゃんと本は定価で買ったので許してほしい。私はこの基本アイデアを何回も裏切って欲しかったのだ。そこで思考停止するのはもったいない。
一応、Jホラーの現代的表現の確認という目的は達成できたかな、と思っている。
(きうら)
※映画化決定というオビを観たがこれは止めたい。絶対に失敗するパターン。YouTubeで観られる動画を映画にするとか正気かと思う……余計なお世話だな。