3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★☆☆☆

家(栗本薫/角川ホラー文庫) ~感想と軽いネタバレ

投稿日:2017年6月3日 更新日:

  • 新築の家と、家族にまつわる恐怖。
  • 一人の主婦を襲う怪奇現象。
  • たいして怖くはない。
  • おススメ度:★★☆☆☆

専業主婦の「規子」が、念願のマイホームを、郊外の新興住宅地に新築し(資金は夫が出したものだが、設計やその他交渉は、すべて規子がやった)、幸せの絶頂に至ると自ら感じるところから、話は始まる。友人より先にマイホームを手に入れた優越感や、これからの新生活に胸を躍らせる規子だが、引っ越し当日から、何やら奇妙な現象に襲われていく……。

奇妙な現象とは、夕方に何かの気配を感じたり、無人の玄関からインターホンが鳴ったりと、まあ、実にそれらしいものからはじまる。その後、一人で在宅する規子のもとで、ポルターガイスト的な怪奇現象が起こったり、何者かの視線を感じたりという規子の妄想的な経験がはじまる。その後、夜中にこちらを見つめる「顔」の夢を見たり、住宅地をうろつく「浮浪者」に、不気味な感覚をおぼえたり、と一見ホラーっぽい味付けがなされる。

規子は、立て続けに起こる怪奇現象に付き合い、それに怯えるうちに、自分と家族(夫・長女・長男)との間に、何かしらの<ひび>のようなものを感じる。家族関係が怪奇現象につながっていると感じるのだ。この家族像というのが、(25年前の作品なので、こういうものが一般的だったのだろうが)やけに定型的で、どこかで読んだような感じ。特に、息子の「忍」が、病弱だった過去があり、繊細で、優しそうで、きれいな顔立ちと、いかにも栗本作品の少年といった人物設定で、読者としては非常に食傷的。

最初はホラー小説に家族ドラマを付け足したものだったのが、ラストが近付くにつれ、(ありきたな)軋轢のある家族ドラマに、ホラー要素が付け足されたものになる。さらに、そのどちらも中途半端になり、最後は、曖昧模糊とした規子の幻想めいた独白が、ひたすら続くのみ。もう、ホラーでも何でもなくなる。一応オチはつくものの、どうといった感想もない。栗本作品によくあるが、最初はおもしろそうなのに、最後は、筆が滑りすぎるのかなんなのか、よく分からない駄作になり下がる、そんな作品群に連なる一冊に仕上がってしまっている。

私は、この作品が出版された時と割と近い時期に、都市部から結構離れた新興住宅地に引っ越したので、規子の気持の一端は分かるつもりなので、よけいに惜しい感じがする。外在的な怪奇現象を描いてもよかったのではないでしょうか。なぜなら、新興住宅地でなくとも、この作品は書けるのではないかとおもうからです。

とはいえ栗本薫には、何かの気配や、「それ」、「あれ」といった、ほのめかしだけで、何らかのホラーを書き上げる筆力はあるので、そういう雰囲気だけを味わう分にはよいと思います。

(成城比丘太郎)

 


楽天【中古】

-★★☆☆☆
-, ,

執筆者:

関連記事

エス(鈴木光司/角川ホラー文庫) 【ネタバレ全開】

「貞子」にまつわるアナザーストーリー 粗が多すぎて最後は本を投げたくなる 怖くはありません。 オススメ度:★★☆☆☆ 作者が鈴木光司で、本の裏に次のようなあおりがある以上、リングの関連書であるのは分か …

はじめの一歩(134) (森川ジョージ/講談社コミックス) ~ネタバレあり(という文句が意味を持つかどうかは別として)

脇役に次ぐ脇役が登場 もはや外伝を読んでいるような気分 さすがに引っ張りすぎだ おススメ度:★★☆☆☆ どれくらいの人が興味があるのか分からないが、本作のあらすじ(ネタバレあり)は以下の通り。 引退し …

ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪 ~2話までの短評

やっちまったな! ゲーム・オブ・スローンズとロード・オブ・ザ・リングはジャンルが違う 簡単に言うとスターウォーズEP7を観た感じ おススメ度:★★☆☆☆ ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)の冠は必要 …

マチネの終わりに(監督/西谷弘)

天才ギタリストとジャーナリストの純愛(?) 綺麗に出来ているが大迷惑な話である ラブストーリーの本質的な矛盾感 おススメ度:★★☆☆☆ たぶん、日本の恋愛映画を意識的に鑑賞したのは人生で初めてだ。もち …

THE LEGEND & BUTTERFLY【映画】~ネタバレありの感想

綾瀬はるかの演技は良い キムタクはずっとキムタク 監督のセンスが古すぎる おススメ度:★★☆☆☆ 映画の説明としては「木村拓哉(以下キムタク)が織田信長、綾瀬はるかが濃姫役を演じ、二人にスポットを当て …

アーカイブ