- 読みやすいホラー風味のサスペンス・ミステリ
- どんでん返しは納得の範囲ギリギリ
- 少しキャラクターが軽いかも
- おススメ度:★★★☆☆
マンションの13階に住む女性が、顎を貫通するフックに全裸で吊るされる死体が発見されるという猟奇事件が発生。近くには稚拙な平仮名の犯行声明。まるでカエルの解剖実験のような内容から、犯人はカエル男と呼ばれ、事件は思わぬ方向へ発展する。主人公は小手川と呼ばれる若手の熱血刑事。犯人の回顧視点と彼の視点で物語は展開する。捜査線上に容疑者として浮かび上がるのは、幼女暴行殺害の来歴を持つ青年、ただし、精神の異常が認められ現在は社会復帰している。そして、保護司であり、ピアノ療法で彼の治療を行う有働さゆりという女性が登場。その間にも殺人事件は続く……。
どんでん返しが売りなので、ここで少し興味を持たれた方は、この先のネタバレは読まずに作品そのものを読んで頂きたい。ガッカリするほど面白くないことは無いので、一応オススメとしたい。
以下、ネタバレ感想。
精神障害、その治療というきわどいネタをさらっと読めるエンタメ感満載の展開、時折挟まれる猟奇描写は行きすぎず地味すぎず、しかも3段落ちがつく。こう書けば良くできたホラーミステリだが、気になった点もいくつもある。
まず一つ目の大きなネタバレで。
この連続殺人事件は名前の五十音順に殺人が行われていることが分かるパートが最初のピーク。そのことが発表されると、この小説の舞台・埼玉県の飯能市(実在する。人口約8万人とある)の市民が、元犯罪者のリスト公開を求め、警察を襲撃する。50音順なので次は自分が狙われるというのが動機だが、実際に普通の市民が警察署に入り込んで暴力を振るうというのは余りにも現実離れしてないか。私はここで、この小説に急速に興味を失った。外国のスラム街ならまだしも、主人公の警察官のへのバイオレンスに暴走する資質は日本人には無いと思う。大阪・西成区の例が挙げられているが、あそこは曰くのある土地で比較にならない。見せ場にしたいのはわかるが、せめて数人に闇討ちされる程度の描写にして欲しかった。ただ、ここまではかなり楽しかったのだ。それは確かだ。
二つ目のネタバレにも。
全体の7分目位で犯人はやはり前述の幼女殺害歴のある青年だと明かされる。もちろん、これはフェイク。途中、叙述描写まで交えて、序盤からミスリードされているのが分かるので、これは想定内。では、誰が真犯人なのか? それが例の保護司の女性なのである。実は被害者に彼女の実の小学生の息子が含まれているので、これは意外と言えば意外。ただ、ピアノ治療といい、殺人の動機が家のローンを払う為だということといい、唐突感は否めない。また、この女性と主人公は格闘するのだが、その前に警察署、犯人とされた青年と立て続けに肉弾戦を繰り広げているので、長い戦闘シーンに飽きてしまったというのもある。息子を殺す動機も薄い。
最後のネタバレ。
その保護司を操っていたのは、過去に精神障害者に娘と孫を殺された保護司の師匠である教授というのが真相。憲法39条などの問題も出て来るが、本当の目的は、その犯罪者を無罪にした四人目の被害者の弁護士を殺すための計画という教授の……遠大な……犯罪だったのである。その為にわざわざ性的虐待から一度回復させた弟子とも言える有動さゆりを強姦するなど、かなりの飛躍を感じる。前半では善意の協力者として登場するのだが、さすがにこれは作りすぎだろう。オチから逆引きしたような展開だった。
とはいえ、私は「連続殺人事件カエル男」というユーモラスなタイトルの小説を読んでいるのである(表紙もそれに相応しい)。精神障害と犯罪、その被害者と加害者の人権などがテーマであるが、本当は二転三転する軽妙なサスペンスを描きたかったのだろう。そう考えると格闘シーンの連続にも納得できる。ちなみに最後に無罪となった青年に殺されるのはこの教授であることが示唆されて終わる。御前崎ということで、アイウエオ全て殺されて終わり、ということだろう。五十音が五音で終わるのはご愛嬌だ。
とまあ、長々とネタバレを続けてみたが「どんでん返しの帝王」と呼ばれる著者の個性は味わえた。クラシック音楽が趣味のようで、本作にも取り入れられているが、それをテーマにしたミステリ三部作などもある。また、本作にも何と続編があるのだ。
私はもう少し重たい展開を期待していたので、微妙に乗り切れなかった。続編が読みたいような、そうで無いような。
(きうら)