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さらに悩ましい国語辞典(神永曉/時事通信社)~内容の簡単な紹介と「真逆」への所感

投稿日:2017年9月17日 更新日:

  • 言葉の用法の悩ましさ。
  • 揺れ動く日本語の意味。
  • 本の紹介というより、私のとある言葉への違和感。
  • おススメ度:★★★☆☆

今回は紹介というより、この書物をパラパラとめくってみて(改めて)考えた、普段から私の抱いている違和感を書いてみたいと思います。本来なら、このような感想は「以前のサイト(旧サイト)」にでも書くことなのですが、長くなりそうなのでこちらに書くことにしました。ですので、お前の長ったらしい所感なぞ知らんわ、という方には申し訳ないですが、適当に読みとばしてください。

さて、まずこの本の簡単な内容に触れます。ここには、(普段から)日本語を遣う人の、その使用法についての妥当性や、読み方の変化や、微妙な意味内容になってきている言葉などについて書かれています。著者は『日本国語大辞典(第二版)』の編集をしていたようです。本書で取り上げられている項目としては、例えば、「アンケート[をとる/をする]」のどちらが自然なのか(アンケートをする、の方が自然な言い方だそうです)といったものから、最近話題になった「忖度」には、「他人の心を推し量る意味だけで、そうした上で何か配慮をするという意味はない」といったものなど、知っているものから知らないものまで色々ありました。

その項目群の中で、「ほぼほぼ」というものがあります。著者は「ほぼほぼ」の成立状況を書いた後に、最初に読まれていたアクセントと最近のアクセントとは違ってきていて(実際に声に出してみてください)、その辺りに違和感があるとも書いています。私も最近よく耳にする平板なアクセントの「ほぼほぼ」はどうもダメです(自分では使用できないという意味です)。同じような意味で、私が強烈な違和感を抱いているのが「真逆(まぎゃく)」です。

「真逆」はここ十数年頻繁に口にされ、書物にも徐々に広がりつつある印象です。2004年の流行語大賞の候補にもなったようなので、その頃から認知されだしたのでしょう。私は、最初にその言葉(発音)をラジオで聴いた時に、思わず「なんじゃそりゃ」と心の中で呟きました。「マギャク?」、どう書くねん、「魔逆か?、なんか怖ろしい字面やな」、と思ったかどうかはあまり記憶にないですが、やがて、それが「逆」であることを強調した言葉であろうことは推測できました。何か目新しいものがあるのか、その言葉はすぐに蔓延しだし、今ではちょっとした学者の書く入門書的な(専門的)書物にも使用されているのを見かけます。完全に現代語(?)として定着した感じです。

だがしかし、先にも書いたように私はいまだにこの言葉には違和感しかありません。特に口にするのはどうしてもできません(人が言っているのをきくだけでもゾッとします)。私は今までに、意識的に(ギャグ的なものとして)二回ほど文章で使用したことはありますが、それを発音するのにはどうしても越えられない壁があります。

なぜダメなのか書く前に、『さらに悩ましい国語辞典』の著者である神永氏が、この「真逆」について何と書いているかみてみましょう。神永氏はウェブ上に本書の元となった連載コラムを持っていて、そこの「2013年08月12日」付けで「真逆」について取り上げています。それによると、これを使用しているのは主に若い世代で、年齢が上になるほど使用率は下がるようです。さらに、「ま(真)」は接頭語で、「真新しい・真正直」などの語があるように、「語の成り立ちとしてはごく自然なものと言える」とあります。ここまでだと、「真逆」は至極まっとうな言葉と言えるかもしれません。しかし、神永氏が言うように、なぜ「せいはんたい(正反対)」ですむところを、「まぎゃく」と言葉の経済としてはあまり意味のなさそうな言い換えをしたのかという疑問は残ります。そこは私も不思議に思います。

神永氏は同じくウェブ上で、「日本語の乱れなどという気は毛頭ないのだが、『真逆』を好きか嫌いかと聞かれたら、好きなことばではないと答えるであろう」と書いていますが、はたして、この「真逆」現象(?)は「日本語の乱れ」の一種なのでしょうか。「真新しい」が『広辞苑』に載っているように、いずれ「真逆」も古くから遣われる言葉という(誤った)認識になるかもしれません。では、なぜこれほどの違和感があるのか。

その違和感について考えると、まずこの「真逆」には、本来別の読みがあったというところからくるものがあるからかもしれません。私の手元にある『広辞苑第五版』だと、「真逆さま(まさかさま)」の項目があります。また、『明鏡国語辞典』では「まさか」の項目に「真逆」とも表記することが書かれています。いずれも「まぎゃく」使用以前の編集なので、「真逆」の読みは(読むとするなら)「まさか」しかなかったということになります。どうやらこの辺りに第一の違和感がありそうです。

この「まさか(真逆)」は、しかし、最近での使用例はあまりないように思います(「まさかさま(まっさかさま)」は使用されることはあるでしょうが)。私が最近目にした「まさか(としての真逆)」の使用例(おそらく)も『二十世紀鉄仮面(Ama』だけで、この本も80年前のものということで、おそらく古い本だけによく見られるのでしょう。ここでひとつの憶測として、(比較的)古い本を読んだ人(若者)が、「真逆(まさか)」を「まぎゃく」と読み間違え、そこから広まった可能性があります。自分でもちょっと苦しい憶測ですが、私の「まぎゃく」についての違和感の原因としては、これが大きいかと思います。つまり、今まで「まさか」と読んできたのを「まぎゃく」と読めと強制させられるわけですから(大袈裟)、その抵抗感はそれなりにあるでしょう。あるいは、逆に考えると、今まで「真逆」が、「まさか」との弱い絆しか持たなかったところへ、新たに「まぎゃく」という強い繋がりを持った読みが登場したというだけかもしれません。

そしてもう一つの違和感の原因となったと思われる言葉があるのですが、それは、「まはんたい」という言葉です。これは文字で書くと「真反対」でしょうか。一時期この言葉をよく聞いたことがあるのですが、「まぎゃく」とどちらが先だったかは分かりません。もしかしたら今でも遣われているかもしれません。「まはんたい」から「まぎゃく」へと(正反対の言い換えとして)移行したと考えてみると、私としてはより違和感のある移行だというしかありません。違和感の原因としてはちょっと弱いですが、「まはんたい」には少しの違和感しかないのに、「まぎゃく」には私の魂を削ってくる凶器のような感じがあります。

なぜ「まぎゃく」だけがダメなのか、これだけでは十分には分かりません。世間の人が得々として言う(書く)からという、ひねくれた感情だけではないです。他にもおかしな言葉の使用はいくらでもあるのに、それらは特に嫌だとは思いませんし。まあ、「まさか」としての「真逆」を文章で用いることもないですから、どうでもいいんですが、古い本の「真逆」を読むときには注意がいるだけでしょう。ところで、どうでもいいですが(真逆と似ている)「莫逆(ばくげき・ばくぎゃく)」も将来的に違う読み(と意味)になるかもしれません(ならへんやろう)。

(成城比丘太郎)



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