★★★☆☆

おやじ丼 (群ようこ/幻冬舎文庫)

投稿日:2019年10月21日 更新日:

  • ダメ親父図鑑
  • 自分には中々クるものがある
  • 面白いが哀しい狂気
  • おススメ度:★★★☆☆

ホラーとは何の関係も無いが、私は本書を読みつつ、非常に苦痛を感じた。いや、苦痛というより恐怖だろうか? 本のジャンルというならむしろユーモア小説である。普通の人は恐怖は感じないだろう。ただ、本書に出てくる「オヤジ」は非常に見苦しい。

郡ようこの本は初めて読んだ。理由は簡単で、この前の椎名誠「本の雑誌血風録」に事務員として登場していたからだ。彼女目線の椎名誠像が面白かった&本棚で目についた、という単純なもの。中身もストレートで、著者が出会ったであろうダメ親父をモチーフに、スパイスを効かせた半実話の短編小説になっている。

列記してみると「断れない人」「恥ずかしい人」「ゆるい人」など、全て後ろに「人」がつく、続けて「うすい」「うろたえる」「勝手な」「まめな」「ケチな」「臭い」「ひとりの」「やる気のない」「スケベな」の12篇。どうだろう、「人」の部分を「あなた」に置き換えると、世の親父はかなり嫌な気分になるのでは無いだろうか? 少なくとも一つは心当たりがあるはずだ。

本の裏には「爆笑小説」とあるが、とんでもない。どちらかというと、苦くて哀しい。例えば最初の「断れない人」は愛人が4人もいる親父の話だ。本人は好きになられると断れないと言うことだが、平凡なサラリーマンで妻も含めて5人の女というのは恐ろしい状況だ。まあ、一人ならともかく、さすがにこの数は羨ましいとは思わない。

「ゆるい人」は完全な下ネタ(しかも汚い方)で、親父の下の話なんて読んでどうするんだと思うが、要するにアルコール依存症なのである。その根も深く、家族内での扱いの薄さが遠因という気がする。また、お話の特徴として、結論は「こんな俺でもまあ仕方ないか」で救いが無い。これがジワジワ効いてくる。

「うすい人」はあんまりだ。「フランシスコザビエル型」だの「磯野波平タイプ」だの、書かれてうろたえない同輩は居ないだろう。この点、私も当て嵌まるので、切ないというより、一種、諦めを覚えた。「ひとりの人」や「スケベな人」など読んでいると、だんだんマゾヒステリックな気分にもなってきた。

例外もあって「まめな人」は定年後に妻から家事を取り上げる男の話、「ケチな人」は唯一、その妻も同じ性質を持っている。どちらも本人以外には極め付けのアンハッピーなお話である。お話としては面白いので、楽しく読めるのだが……。

後半に向け小説は次第に狂気の度合いが上がって、笑える親父では無く、完全に狂った親父になっている。男性蔑視では無く、親父の宿業の断罪、というダークなイメージに満ちている。何を大袈裟な、と言われればそれまでだが、他人の不幸は笑えても、自分の不幸はまた別。そういうものだ。

誰に勧めていいのかはよく分からないが、本書の根底にはありふれた親父の根底に煮こごった孤独の塊のようなものがあって、静かに深く絶望することができる。

うーむ、やっぱりホラーじゃないか。少なくとも、私にとっては。

笑いと恐怖は実によく似た兄弟であろう。

(きうら)


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