- 原作漫画のはなし
- つまみ読みした感想
- ジワジワ凄さが分かる
- オススメ度:★★★★☆
本棚を整理していたら3冊のコンビニ本が出てきた。表紙を見ると(裏は銀座カレーの広告)思うと、ゲゲゲの鬼太郎の漫画だった。買ったことも忘れていたが、この前、少しだけ今の鬼太郎のアニメへの違和感を語ったので、パラパラ読んでいたら、全部読んでしまった。
私が生まれた頃には既にアニメ化されていたような作品であるし、貸本時代のエピソードや著者の作品は他にも沢山読んでいたが、改めてその魅力を感じた。
三つある。
一つはやはり圧倒的な画力。普通の線画は、いわゆる「古い漫画」だが、時折点描される妖怪や風景が圧倒的に凄い。有名だが「吸血木」に出てくる「のびあがり」という妖怪などは思わず二度見する造形・設定だ。話も面白く、旧アニメの親玉格の「ぬらりひょん」でも及ばないくらいに鬼太郎を窮地に陥れる。他にも草の間に隠れて敵を待つ鬼太郎の一つ目の構図など、完全にアート作品として成立する凄さ。決め絵と動かす絵を描き分ける漫画家は多いが、ここまで極端に強弱がつくのも珍しい。しかも、それをまとめて見せてしまうのは凄い。子供の頃、著者の妖怪図鑑ばかり眺めていた理由がよく分かった。他者が追随出来ないセンスだと思う。
二つ目は、長編に使うようなネタを僅かなページに納めてみてせしまう独特なストーリーテーリングの技術だ。海外から妖怪軍団が攻めてくる、なんて話をたった一話で終わらせてしまう凄さ。自分なら思いついた瞬間に長編小説として描いてしまうだろう。なので異常な密度で物語が展開する。時には漫画が追いつかず、あらすじになっててたりと、破天荒な構成だ。訳が分からないという時もあるけど、これだけのネタを次々と繰り出すのは、妖怪という元ネタが有ったとしても中々出来ないだろう。強敵「かみなり」との決戦も凄まじい速さで語られる。
もちろん弊害もあって、多彩な妖怪に勝つために鬼太郎は超人化していて、次々と新しい設定が出てきて笑った。雪ん子、雪女、雪男と冷気で責められて死闘を展開したかと思うと、相手の妖怪を体内に入れて凍らせ「僕は幽霊の子供だから寒さは平気」とか言ってたりする。まあ、大らかな時代の漫画と言えようか、それでも面白いのだから構わない。
最後はあくまで「男の世界」だということ。アニメでも有名な砂かけ婆や子泣きじじい、ぬりかべや一反木綿も出て来るが、あくまで戦うのは鬼太郎一人である。目玉の親父も実はあんまり助けてくれることもない。これは「何のためになぜ敵と戦うのか」という矛盾を孕んだ男の姿だろう(女性もそうかも知れないがもちろん私には分からない)。仲間にも頼らない鬼太郎だからが、もう一つ、ヒロインというものがいない。私が読んだ限りでは、女性と呼べるキャラは一人だけだった。ここまで徹底してヒロインを排除してこれだけ売れた少年漫画はそう無い。猫娘も最初は花沢さんのようなデザインで、令和時代の少年が見たら目を疑うだろう。むしろ、愛を持って描かれるのはねずみ男で、このダメキャラが、案外鬼太郎を助けてくれる。アニメほどコメディアンでは無く、鬼太郎の一部と言えるほど魅力がある。彼が真実を語っている場合も多い。
強敵が現れ、それをただ「人間のために」という理由だけで、命を掛ける鬼太郎は哲学的でだ。連続して読んでいると、だんだん、この部分に次第に感性が麻痺して行くのが分かる。ラストの素っ気なさはそれに拍車をかける。
「寄生獣」にもミギーとシンイチを、目玉の親父と鬼太郎に例えるシーンがあるが、この漫画の影響は計り知れない。この画力、分厚さ、世界観が様々な解釈を可能にし、今もアニメ化される要因だろう。猫娘が美少女になっても、それは変わらない。結局、子供時代の私は、大人の世界の真の戦いを見せられ、その真実に感動していたのだろう。機会があれば、ぜひ、原作を。
ちょうど昨日「猫仙人」のアニメ化を観たが、猫娘が一緒だった。設定も色々変わっているし、こうやって引き継がれていくのも悪くないと思う。
(きうら)