- 「読書メモ091」
- チリの戯曲。
- 世界中に今でも起こること。
- オススメ度:★★★★☆
【近況〜〇〇の秋来る】
秋が近づいてきているようです。読書のはかどる秋。昨年は岩波文庫の100冊を取り上げましたけど、今のところ、他の文庫でそれをする元気がない。しかし、食べる元気はあります。今日はイカの天ぷらみたいなのを食いました。
そして、スポーツの夏と秋。バスケとサッカーのW杯、野球、ラグビー。ラグビー日本代表は初戦のチリ戦に快勝しました。私は少し観てました。
というわけではないですけど、チリの戯曲を読みました。
【読んだ本(岩波文庫)】
・アリエル・ドルフマン『死と乙女』(飯島みどり・訳、岩波文庫)
「チリ発」の戯曲です。登場人物は3人で、ほぼ、その3人のやり取りだけで物語はすすみます。この3人の会話のなかに、ピノチェトによる独裁政権下のチリで起こったこと(の一部)が垣間見えた気になりました。
この3人とは、女性ひとりと男性ふたり。その女性が、かつて自分を拷問した男性を、自宅に訪れた医師の声に感じます。なぜ声でその人物とわかったかは、作品を読めばわかるはずです。そして、その医師を監禁して、あれやこれやの詰問をいたします。
これだけ読むと、サイコホラー的なかんじもしますけど、そんな生易しいものではなかったです。もうひとりの男性(=その女性の夫)が、そのふたりの間に入ることにより、会話はある程度複雑になり、チリ国民が陥ったとされるジレンマなどが浮き彫りになります。
この戯曲で描かれた、「平和を装う恐怖、真実と責任追及、国家権力の闇という人類の今日的アポリア」は、現在でも世界中でみられるものでしょう。そして、暴力に翻弄された人たち(とりわけ一組の夫婦)がどうやって恢復していくのか。そのあたりが読みどころでしょう。どうやったら人間としての尊厳を回復できるのか。
現在の日本でも、独裁的な体制にある組織や、その影響下にあるものたちにより、多くの被害者が生まれているようです。その被害者の方たちの尊厳の回復を考えるうえで、なにかの示唆を与えてくれる戯曲なのかもしれません。
【さらなる岩波書店の本】
木村由莉『恐竜がもっと好きになる化石の話』(岩波書店)を図書館で借りてきて読みましたけど、恐竜だけでなく、大型哺乳類の化石についての本でもあります。骨の化石だけでなくうんちの化石からも色んなことがわかります。それにしても、大型哺乳類や恐竜という存在が地球上にかつて動き回っていたというのがすごい。偉大な祖先たちだ。ダイナソーは偉大な祖先。
(成城比丘太郎)